ほっとひと息、こころにビタミン vol.6
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
飲み会のグチ
酒の席で仕事や職場に対するグチをこぼす人はたくさんいますが、それがストレス発散に役に立っているのかという質問を受けました。私は、親しい人にグチをこぼせるというのは、とても大切なストレス対処法だと考えています。
グチをこぼしたい気持ちが分かってもらえると、それだけでもこころが軽くなります。グチをこぼしたくなるときは、一人であれこれ悩んでいることが多いものです。そのようなときには、自分の気持ちなど誰にも分かってもらえないという孤独感が強くなっています。そうしたときにグチを言って、相手の人がそれを受け止めて共感してくれれば、孤独感が和らいで、こころが軽くなります。
また、人に話すことで、自分の気持ちを確認したり、考えを整理したりすることができます。相手の人に分かってもらうためには、自分の気持ちや考えを自分なりに理解しておく必要があるからです。
それに、相手の人からのコメントを聞くと、それまでとは違った視点から問題を考えることができるようになります。自分だけの世界から自由になって、しなやかに考えられるようになるのです。
もちろん、こうしたことは、酒の席でなくてもできます。普通の生活のなかで、信頼できる人や友人と話をしたりグチを言ったりして気持ちが楽になるときには、同じようなこころのメカニズムが働いています。酒が入っていないぶん、感情的になりすぎずに、冷静に自分を振り返ることができます。
そのようなことを考え合わせると、さらに先に進むためには、酒の席よりも酒が入らない状態で話した方が良いでしょう。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。