ほっとひと息、こころにビタミン vol.26
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
慣性モーメントで心身を健康に
部署異動や転勤、進学や進級など、春は変化の多い季節です。しかも、今年は新型コロナウイルス感染症が生活に影響しています。環境が大きく変わって不安を感じていても、しばらくは何とか夢中に頑張れるものです。しかし、次第に緊張がとけてくると、疲れを感じるようになりますし、体調を崩すこともあります。
そうした状態を避けるためには、意識的に規則正しい生活を続けるようにします。元気が出ないからといってダラダラしていると、気分的に落ち込んできます。私たちが毎日同じように仕事を続けられているのは、決まったリズムで生活しているからです。同じリズムを毎日繰り返すのは単調すぎるように思えますが、その単調さが身体のリズムを生み出すのです。
これは、自転車に乗るときと同じです。最初にペダルを踏むときには力を入れなくてはなりませんが、2回、3回とペダルを踏んでいると、慣性モーメントが働いてペダルは軽くなってきます。毎日の生活でも、身体の慣性モーメントのリズムを上手にいかすことが大事なのです。
だからといって、まったく同じことの繰り返しでは、単調で退屈になってしまいます。その結果、気持ちが沈み込みがちになったり、やる気を失ったりします。こころの慣性モーメントは、やりがいを感じることや楽しめることを適度に織り込んでいくことから生まれてきます。小さなことでも、こころがウキウキする体験をシャワーのように浴びることです。そうすると「報酬系」と呼ばれる脳の神経ネットワークが刺激されてやる気が生まれてきます。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。