ほっとひと息、こころにビタミン vol.33
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
怒りの上手な伝え方
新型コロナウイルス感染症拡大のために大変な思いをした今年も残りが少なくなってきました。感染拡大の中で、「自粛警察」が話題になりました。自粛していないように見える飲食店や、県外からの訪問者を一方的に攻撃する人たちです。
直接、新型コロナと関係していなくても、ささいなことで店員を怒鳴りつけている人を目にしたこともあります。なぜか、多くの人が怒りっぽくなっている印象を受けます。
私たちは、自分が当然だと考えていることが思うようにならないと怒りを感じやすくなります。自分を否定されたように感じるからでしょう。しかし、そのようにイライラした態度で接すると、相手もまたイライラしてきます。感情は相手に伝染するのです。
そうすると、こうしてほしいという自分の本当の気持ちを相手に伝えることができません。むしろ、お互いに感情的になることで関係が悪くなり、自分の期待とは反対の方向に事態が進んでいく可能性が高くなります。
そうならないためには、腹が立ったときにすぐに行動に移さないで、ひと息つくことです。その上で、相手にどのようにしてほしいと自分が考えているのかを頭の中で確認して、その考えを冷静に伝えるようにします。
そのときに、極端に感情的になった強い言い方と、感情を抑えた弱い言い方を頭の中に浮かべてみるとよいでしょう。そうすると、気持ちが落ち着くだけでなく、適度な良い言い回しが浮かんでくることがよくあります。そのようにすれば、本当に自分が期待している状況を作り出すことができて、怒りも和らいでくるはずです。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。