ほっとひと息、こころにビタミン vol.38
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
気の緩みと人恋しさ
新型コロナウイルス感染症の第3波に対する緊急事態宣言が解除されてほどなく、第4波ともいえる感染の再拡大が始まり、いくつかの地域で「まん延防止等重点措置」が発出されました。しかし、各地の人の流れが大きく減ることはなく、自粛疲れによる気の緩みが指摘されています。
昨年の第1回目の緊急事態宣言後にも人の動きが活発になり、批判的なニュアンスを込めて気の緩みが指摘されました。そのとき私は、それが気の緩みというよりも、人恋しさによるものだと考えていました。
そもそも私たち人間は、一人では生きていくことができません。太古の昔から集団で生活し、さまざまな厳しい状況に出合ったときにも、みんなで力を合わせて切り抜けてきました。そのような私たちが、新型コロナウイルスの感染拡大という厳しい逆境では自粛生活を要求され孤立するという、私たちの本来のストレス対処とはまったく逆の生活を強いられることになりました。
そうした状況で不安になり、無力感を抱いた人たちが、他の人とのつながりを求めて動きを活発化するのは、自然なこころの動きのように、私には思えます。だからといって、私は、無防備に他の人と交流するのが良いとは考えていません。
人と交流するにしても、換気の良い部屋や屋外で親しい人たちと少人数で会うようにするなど、感染対策に十分注意を払うことが必要だということは言うまでもありません。そのときにアルコールを飲むと会話が弾みやすくなりますが、その一方で、気が大きくなったり聴力が低下したりして大声になりやすいので注意することも大事です。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。