ほっとひと息、こころにビタミン vol.46
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
あきらめないで工夫をする大切さ
新しい年が始まりました。この2年間は、誰もが新型コロナウイルス感染症に振り回され、苦しい思いをしてきました。新型コロナ感染症が大変なのは、自然災害であるだけでなく、どうしても人災の要素が入ってくるからです。
自然に存在する生命体であるウイルスに苦しめられるという点では自然災害といえるのですが、政府や医療機関の対応、飲食店や企業の対応、個人の対応など、人間の対応がさまざまなレベルで影響するという点では人災です。天災ならある程度あきらめられることでも、人災だと怒りの気持ちが強くなってつらい気持ちが続きやすくなります。他の人に対する不信感など、私たちのこころの負の側面を感じやすい状態が続きやすくもなります。
そうした体験はつらいことでしたが、だからこそ、私たちは人間的な触れ合いの大切さを感じることができたと、私は考えています。自粛要請を守らないで外を出歩く人が少なからず存在したのも、触れ合いを求めていたからです。そうした行動をするなかで、私たちは、自分自身を、そして大切な人たちを守るためにどのように行動すれば良いか、試行錯誤しながら身体的距離とこころの距離のバランスを取れるようになってきました。
コロナ禍に限らず、私たちは人生の中でいろいろな苦しい状況に直面します。しかし、いくら苦しくても、あきらめないで工夫をすれば自分らしく生きていく新しい道を見つけることができるということを、今回のコロナ禍を通して学ぶことができたと思います。このような思いを大切にして、今年もまた先に進んでいきたいと考えています。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。