働き盛りのメンタルヘルス vol.26
本年は、会社の中の困った人たち、とりわけ精神疾患を原因として、「困った人化」している人たちへの理解を深めていきます。今回は、精神疾患への理解を深めるための、4分類を紹介します。
※このコラムは「健康保険」2012年5月号に掲載されたものです。
専門家でない人が精神疾患を考える視点とは?
会社の中で増える、「困った人たち」。このような人たちは、次の3つのタイプに分かれることを先月お話ししました。
・フリーライダータイプ
・性格タイプ
・精神疾患により、「困った人化」している人たち
このうち、精神疾患によって「困った人化」している人たちと、どうすればうまく付き合っていけるのか。そのためにはまず、こころの病気である精神疾患が、どのような特徴や特質をもっていて、どのような影響を私たち、そして病気にかかってしまった人たちに与えるのかを、理解することから始まります。
とはいえ、専門家でない立場から精神疾患を理解することは、非常に難しいことです。たとえば、「うつ病」をとってみると、「こころの風邪」であるとか、「がんばれと言ってはいけない」など等という、言説が流布しています。こういった言葉が無意味であるとは思いませんが、杓子定規な見方は決して良い結果を生みません。現に、アメリカ・ヨーロッパなどにおいては、「うつ病」患者の治療意欲を高めるために、適度に励ますことが一般的であり、患者を励ますことを禁忌としている、日本の精神医学の特異性が指摘されています。(井原裕「激励禁忌神話の終焉」)この例を挙げずとも、一口に「うつ病」と言っても、原因も違えば、病気になる人の性格や年齢など、あらゆることが異なっています。このような、複数の要因が絡まりあっている状況を、ひとくくりに「うつ病」と捉えることには、そもそも無理があるのです。このように、精神疾患への個別対応においては、考えなければならないことがたくさんあって、「こうすればOK」といったHow To的な対応法は残念ながらありません。
では、私たちはどのようにしたらよいのでしょう。それはまず病気の理解を深めることです。そして、その理解を深める糸口は、病名や症状の理解よりもむしろ、目に見える行動から捉えていくことにあります。相手が何に悩み、どういったことで苦しんでいるのか。また、その結果出てくる行動や思考の特徴には、どのようなものがあるのかを理解することが、精神疾患によって「困った人化」している人たちを理解する、はじめの一歩となるのです。
私たちが精神疾患に対して取るべきスタンス
では、目に見える行動をどのように捉えていけばよいのでしょうか。精神疾患の捉え方には、大きく分けると、疾病性と事例性のアプローチがあります。
疾病性のアプローチとは、症状や病名などにフォーカスを当てて、対象を見ていく考え方です。これは、専門家、とりわけ精神科医の分野ですので、現場にいる私たちにとって、有用な視点を提供してくれるものではありません。
一方、事例性のアプローチとは、具体的な困ったこと、たとえば、遅刻が増えた、身なりがだらしなくなった、書類の提出期限が守れなくなったなど、周囲からみて事実として捉えられる、いわば「困った出来事」があるかどうかという視点です。そして、このような周囲が「困ってしまう」行動の原因は何かを考えていく見方です。
精神疾患を考える4つの分類
それでは、「困った出来事や行動」を見ていく際に、助けとなる、基本的な見方を紹介したいと思います。精神疾患を主な原因とした、「困った人化」している人たちの問題行動は、大きく分けて、次の2つの軸によって捉えることができます。
1つ目の軸は、環境や状況を読み取る力、いわゆる「空気を読む力」です。ここでは、状況をアセスメント(査定)する能力としておきます。もう1つは、環境や状況に自分を合わせる、適応させる力です。こちらは、状況に自分をチューニングする(合わせる)能力としておきましょう。この2つの能力のいずれか、または両方が、過剰、もしくは足りなすぎることで、周囲から見ると、「困った状況」が発生していると考えられます。そして精神疾患のタイプも、この2つの能力の偏りによって、おおまかに分類することができそうです。
では、それぞれのタイプでは、どのような「困った出来事や行動」が見受けられ、そしてどのような特徴があるのか。次回からは、各分類それぞれについて、解説編と事例編の形式で、「困った人化」している人たちの行動特徴や、原因となる疾病への基礎的な理解を深めつつ、付き合い方のヒントを考えていきます。