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働き盛りのメンタルヘルス vol.27

精精神疾患の視点から「困った人たち」を考える 「気にしすぎタイプ」編―①

今月から、精神疾患を考える4つの分類について、詳しく見ていきます。今月と来月は、環境を「気にしすぎ」てしまい、また環境に「合わせすぎ」てしまう「気にしすぎタイプ」について考えていきます。

※このコラムは「健康保険」2012年6月号に掲載されたものです。

誰もがまわりを「気にしている」

人は誰しも、置かれている場に適した行動をとろうと考えます。大切な会議にジーパンで参加したり、重要な取引先との会食で羽目を外したりすることがないのは、状況を理解し、その状況に対して適切なふるまいをするように、自分の行動や思考を調節しているからです。

それは、自分に無理をしていない、ストレスの少ない状態であるとはいえませんが、円滑な社会生活を営んでいく上で重要な機能を果たしています。しかし、常に周囲を気にしている、つまり気を使う必要のない場面でも気を使い続けていたら、心身ともに疲れてしまいます。反対に、気を使う必要がある場面で、気を使わず、自由なふるまいをしていれば、社会生活に支障が出てきかねません。

そこで私たちは、状況判断に基づいた「気を使う・使わない」というモードの切り替えを、日常的に行っています。この「ON」と「OFF」をうまく切り替えることで、メンタルヘルスのバランスを保っているのです。

「気にしすぎタイプ」が困ってしまう理由

ここで、新入社員を例にあげて、「気にしすぎタイプ」について考えてみましょう。新入社員は入社当初、生活の自由度が高い学生から、低い社会人という新たな環境に接することになります。そして、これまで経験したことのない、会社という環境に適した自らの行動や思考の調節に戸惑い、緊張感やストレスを感じています。多くの社員から見れば、新入社員たちは、はじめて触れる環境を過剰に「気にしている」でしょうし、また過剰に「合わせよう」としているように映るはずです。新入社員のつらさは、頑張りどころが分からないということよりはむしろ、気の抜き方やそれが許される状況がわからないという、モードの「ON」と「OFF」の切り替えポイントが見えていないところにあります。

同様のことは新入社員に限りません。たとえば、新しい環境に直面した時、はじめて訪れた場所にいる時や、未経験の何かに取り組もうとする時、知らない人たちしかいないような集まりに参加する時などには、私たちも場を理解し、そして場に合わせるストレスを感じています。その証拠に、はじめて出かけた場所に行った際には落ち着かない感じがしたり、いつもよりも疲労感を感じたりするものです。

そうした時に感じていることは、周囲から見て「場にふさわしいふるまいができているだろうか」、「自分はうまくできているだろうか」という不安な気持ちです。こうした身の置き場がないような不安を感じている時には、なんとなくそわそわしたり、煙草を吸う本数が増えたりするかもしれません。また汗をたくさんかいて、今度は汗をかきすぎていることを周囲がおかしく感じないだろうか等と、さらに不安が増えていく。このようなことは、誰にでも思い当たることがあるのではないでしょうか。

これらは、周りを「気にしすぎ」てしまう、あるいは「合わせよう」とするストレスを発散するために生じている行動です。すなわち、高いストレスが、心身にのしかかっていることのサインの一つなのです。とはいえ、厳しい環境であっても、その環境に触れる頻度があがるにつれ、多くの人は次第に環境に慣れていくものです。ですから、最初のうちは不安を感じることがあっても、それは一時的なもので、感じる不安も徐々に減少していきます。

しかし、「場にふさわしいふるまいができているだろうか」という不安を解消できずに、毎日を送っているとしたら、日常生活にも悪影響が及びそうなことが容易に想像できるでしょう。それが、今回取り上げる「気にしすぎタイプ」の人達の置かれている状況なのです。

周囲が見え過ぎることは、実はとてもつらい

このような「気にしすぎタイプ」の人達が、職場に対して強い不安を感じているならば、会社に行くことがとてもつらい状況に陥って、ややもすれば、外出することでさえ億劫になってしまうこともあるでしょう。他者や環境へあわせることは、よりよい社会生活を営む上で必要なことですが、それが過剰であることは、大きなストレスを感じることなのです。

ここでポイントになるのは、実際に周囲に合わせ過ぎているかどうかではなく、環境への適応における2つの機能、アセスメント力とチューニング力のいずれもが、過剰に働き過ぎていると周囲から見える状態にあります。細かいところが見え過ぎてしまうために(過剰なアセスメント)、その環境に適応しようと必要以上の努力(過剰なチューニング)をしてしまう。その結果、つらくなってどうしたらよいかがわからなくなっている。「気にしすぎタイプ」の人達は、このような状態に置かれているのです。来月は、「気にしすぎタイプ」について、事例を通じてさらに理解を深めていきたいと思います。

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