健保ニュース
健保ニュース 2024年8月下旬号
令和4年度社会保障費用統計
社保給付費138兆円 コロナ費が縮小し初の減少
医療は前年度比2.8%上昇
国立社会保障・人口問題研究所(林玲子所長)は7月30日、令和4年度社会保障費用統計を公表した。医療、年金、介護などの公的制度から個人へ支給した現金・現物の年間総額に相当する「社会保障給付費」は137兆8337億円で、過去最高を更新した前年度から0.7%減少。新型コロナウイルス感染症対策費が同3.5兆円縮小し、昭和25年度の集計以降、初めて減少に転じた。一方、社会保障給付費のうち、医療は給付費などの増で前年度比2.8%上昇。社会保険料は同2.3%伸び、社会保障財源の50%超を占めた。
1人当たり社保給付費
110万3100円
「社会保障費用統計」は、日本における社会保障全体の規模や政策分野ごとの構成を明らかにすることを目的に、医療保険や介護保険、年金などに関する1年間の支出について、OECD(経済協力開発機構)基準による「社会支出」とILO(国際労働機関)基準による「社会保障給付費」を集計している。
令和4年度の「社会支出」は前年度比0.5%(6683億円)減の142兆3215億円、「社会保障給付費」は同0.7%(9189億円)減の137兆8337億円。いずれも昭和25年度の集計以降、毎年過去最高を更新してきたが、新型コロナウイルス感染症対策関係費の縮小に伴い、初めて減少に転じた。
国民1人当たり平均額は、「社会支出」が同300円(0.03%)減の113万9100円、「社会保障給付費」は同2400円(0.2%)減の110万3100円にそれぞれ減少した。
対GDP(国内総生産)比は「社会支出」が同0.70ポイント減の25.12%、「社会保障給付費」が同0.73ポイント減の24.33%と、いずれも減少。
社会支出の対GDP比について、令和2年度時点で国際比較すると、日本(25.30%)はイギリス(22.49%)より大きいが、フランス(34.88%)、アメリカ(29.67%)、ドイツ(28.44%)、スウェーデン(25.47%)より小さかった。
新型コロナ感染症対策費
前年度から3.5兆円減
令和4年度の「社会保障費用統計」に含まれる「新型コロナウイルス感染症対策にかかる主な事業等の費用」は、▽新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)3兆3330億円(前年度比4332億円増)▽雇用調整助成金7856億円(同1兆3903億円減)▽新型コロナウイルス感染症治療薬の確保6958億円(同4131億円増)▽新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業費臨時補助金5754億円(同1588億円減)▽子育て世帯等臨時特別支援事業費補助金(住民税非課税世帯等分)4653億円(同6972億円減)─などで、「雇用調整助成金」と「子育て世帯等臨時特別支援事業費補助金(住民税非課税世帯等分)」は前年度から大きく減少した。
さらに、「子育て世帯等臨時特別支援事業費補助金(子育て世帯分)」は、前年度比1兆7217億円減の264億円を計上。2年度と3年度に増加した「新型コロナウイルス感染症対策にかかる事業等の費用」は、前年度から総額3兆4750億円縮小し、「社会支出」と「社会保障給付費」は初めて前年度から減少に転じた。
「保健」は2.4%増加
社会支出の44%占める
令和4年度の「社会支出」を政策分野別にみると、医療保険、公費負担医療、介護保険等の「保健」が最大の61兆9775億円で、全体の43.5%を占めた。医療保険給付や新型コロナウイルス感染症治療薬の確保などの増加を要因に、前年度に比べ2.4%増加した。
次いで、老齢年金等の「高齢」が48兆9733億円(前年度比0.4%増、全体の34.4%)、児童手当、児童扶養手当、育児・介護休業給付等の「家族」が11兆2086億円(前年度比9.5%減、全体の7.9%)の順。これらの3分野で全体の9割近くを占める。
「家族」は、「子育て世帯等臨時特別支援事業費補助金(子育て世帯分)」の減による減少が大きい。なお、「積極的労働市場政策(1兆6749億円)」は、「雇用調整助成金」の大幅な減少により、前年度から48.0%減少した。
年金と福祉その他は減少
医療と介護対策は増加
令和4年度の「社会保障給付費」を部門別にみると、「医療」が48兆7511億円(全体の35.4%)、「年金」が55兆7908億円(同40.5%)、「福祉その他」が33兆2918億円(同24.2%)だった。
「医療」は医療給付費や新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金などの増に伴い、前年度比2.8%増加。国立社会保障・人口問題研究所は、医療給付費が増加した要因について、高齢化の進展のほか、新型コロナに伴う患者数増や、一般患者の受診控えからの反動と説明した。
「年金」は年金額改定(▲0.4%)や厚生年金の支給開始年齢引き上げ(男性は63歳から64歳)を要因に同0.04%減少。前年度の同0.3%増加から減少に転じた。
「福祉その他」は「子育て世帯等臨時特別支援事業費補助金(子育て世帯分)」、「雇用調整助成金」の減を要因に同6.3%減少。一方、「福祉その他」に含まれる「介護対策」は同0.7%増加した。
社会保険料は2.3%増
社保財源の5割超占める
令和4年度の社会保障財源(ILO基準)の総額は、152兆9922億円で、前年度比6.4%(10兆3986億円)減少した。
内訳は、「社会保険料」が77兆2894億円で前年度比2.3%(1兆7667億円)増、「公費負担」が64兆2172億円で同2.8%(1兆8427億円)減、「資産収入」が5兆7823億円で同60.0%(8兆6782億円)減、「その他」が5兆7033億円で同22.4%(1兆6443億円)減となっている。
「社会保険料」は、全体の半数超となる50.5%を占め、最大の社会保障財源となる。このうち、「被保険者拠出」は40兆6621億円(全体に占める割合は26.6%)、「事業主拠出」は36兆6273億円(同23.9%)で、「被保険者拠出」の占める割合が高い。
「公費負担」は構成比が42.0%で、「社会保険料」に次ぐ財源となり、「国庫負担」(29.6%)、「他の公費負担」(12.4%)を内訳とする。前年度比の伸び率は、「国庫負担」が5.2%減、「他の公費負担」が3.4%増で、「国庫負担」の減少は「雇用調整助成金」の財源に充当される国庫からの支出が減少したことや、「子育て世帯等臨時特別支援事業費補助金(子育て世帯分)」にかかる国庫負担額が減少したことが要因。
「資産収入」は前年度比60.0%減。年金積立金の運用実績が前年度と比べ減少したことが影響し、前年度から大きく低下した。
社会保障財源(EU基準)の対GDP比について、3年度時点で国際比較すると、日本(26.2%)はフランス(34.5%)、ドイツ(32.5%)、スウェーデン(29.4%)より小さい。
項目別にみると、日本は「社会保険料拠出」のうち「被保険者拠出(7.2%)」がフランス(5.6%)、スウェーデン(2.7%)より大きく、ドイツ(9.9%)より小さかった。