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健保ニュース 2024年8月下旬号

鹿沼保険局長が就任会見
医療保険制度は応能負担で改革
現役世代負担配慮 給付と負担の適正化に対応

厚生労働省の鹿沼均保険局長は7月26日に開催された専門誌記者クラブとの就任会見で、「骨太方針2024」や「改革工程」を踏まえた医療保険制度改革の方向性などを語った。医療保険制度改革は能力に応じた負担をベースに対応し、自己負担3割となる「現役並み所得」の判断基準については、令和4年10月から導入した一定所得以上の後期高齢者の窓口2割負担の状況も踏まえつつ、丁寧に検討を進めていくと言及。負担能力に応じた負担によって影響を与える個人の負担と現役世代全体の負担をトータルに分析したうえで議論していくとした。医療費や高齢者医療への拠出金が増えていく見通しのなか、健保組合、協会けんぽなど、被用者保険への対応について、「給付だけでなく、現役世代の負担に配慮しなければならない」との認識を示し、給付と負担の適正化を含む様々な改革に取り組む必要があるとした。このほか、8年度を目途に導入の検討を進めることとされた出産費用の保険適用について、現在、保険者が負担している出産育児一時金との兼ね合いを踏まえて検討を進めていくべきとの考えを示した。(鹿沼保険局長の発言要旨は次のとおり。)


─就任に当たっての抱負

日本の医療制度、医療保険制度は世界に冠たる制度であり、少子高齢化、人口減少のなかで、これからも引き続き国民の安心・安全につながるように制度を守っていくことが最大の課題だ。

合わせて、当面の課題として、マイナ保険証や薬価制度の問題、給付と負担の議論もある。そうした様々な課題にしっかり対応していきたい。


─「骨太方針2024」や「改革工程」を踏まえた医療保険制度改革への対応

政府の「骨太方針2024」や「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」の基本的な考え方は、能力に応じて負担、全世代で支え合うということだ。

高齢者が支えられる側、若人が支える側とすべて決めつけるのではなく、能力のある高齢者には負担をお願いするし、大変な若人には支援をしていくといった考え方にもとづくものだと認識している。

そういう意味で、まずは能力に応じて負担をしていくという考え方をベースにしながら対応していきたい。

金融所得の議論は、金融所得の把握に関する事務的・実務的な課題にどう対応していくのかという話があるほか、被用者保険の保険料算定で金融所得を勘案する場合の課題もある。

非常に難しい課題が多々あるが、現在、自民党PTで検討を行っている。厚生労働省もその動向を見据えつつ、関係省庁と議論を深めていきたい。

一方、金融資産は、勘案すべき資産の範囲をどうするか、個人が保有する資産をどう正確に把握するかといった問題がある。

それに加え、フローではなく、ストックの部分を保険料で勘案していくと、金融資産を持っていれば保険料を負担し続けなければならないという課題もある。

現役並み所得の判断基準については、令和4年10月から導入した一定所得以上の後期高齢者の窓口2割負担の状況も踏まえつつ、今後、丁寧に検討を進めていく。

負担能力に応じた負担に切り替えた時に、それによって影響を与える個人の負担と現役世代全体の負担をトータルに分析したうえで議論していきたい。


─医療機関経営などへの影響が大きい賃上げ・物価上昇への対応状況

令和6年度の診療報酬改定では、物価高に負けない賃上げということで、6年度に2.5%、7年度に2.0%のベースアップを実現するような改定を実施した。

この対応をしっかりと医療機関に周知していくことと合わせ、医療機関における賃上げの状況を適切に把握していきたい。

賃金、物価が上昇していくなかで医療、介護を守っていかなければいけないという考えのもとフォローアップしていく。


─マイナ保険証利用率の向上に向けた取り組み

直近のマイナ保険証利用率は9.9%で、ここ数か月で倍くらい上昇しているが、まだまだ十分ではない。

マイナ保険証利用率の向上に向けて、▽医療機関、薬局に支援していく▽国民へマイナ保険証のメリットを周知していく▽マイナ保険証への移行にあたり混乱を避けていく─ことなどが重要だ。

4月から医療機関等への支援金を倍増した。また、診療報酬の加算点数について、最低の利用率を設けたうえで、より努力している医療機関に点数を上乗せする形の取り組みも行った。

合わせて、国民に対しては、ポスターなどで政府広報を行い、マイナ保険証を使用するメリットを伝えていきたい。


─出産費用の保険適用に向けた検討や医療保険者が関わる少子化対策

人口減少は日本の危機にもつながる大事な課題と認識している。政府をあげて取り組むべき課題であり、そういう意味で言えば、医療保険制度で対応できる課題は対応していく。

そういうなかで、今回、「子ども・子育て支援金」について、企業、高齢者も含め国民全員に負担をお願いした。未来を担う子ども達を支えていく制度をしっかり施行できるよう、保険者の意見も伺いながら、こども家庭庁と協力して準備を進めていきたい。

出産費用(正常分娩)の保険適用の導入は、「こども未来戦略」で「2026年度を目途に検討を進める」と明記された。それに向けて、検討会で関係者が議論しており、その結果を踏まえ、令和8年度の次期診療報酬改定の議論に向けた検討を進めていく。

その際は、現在、保険者が負担している出産育児一時金を念頭に置きながら検討を進めていく必要がある。

出産費用を保険適用する場合に、必ずしも現在の自己負担割合(原則3割)となるわけではない。新たに法律上の立て付けを変える必要があるが、療養の給付の部分に入れるなど、制度の仕組み方により様々な考え方がある。

いずれにしても、出産育児一時金との兼ね合いはきちんと考えていく必要があり、仮に法改正を行う場合、8年の通常国会への法案の提出を視野に入れている。


─健保組合、協会けんぽを取り巻く現状認識と課題、今後の対応

健保組合、協会けんぽは近年、景気や賃上げの状況が比較的に良好な方向に向かっていることもあり、黒字決算となっているが、今後は、▽医療の高度化等で医療費が増えていく▽団塊の世代が2025年で75歳以上となり、高齢者医療への拠出金負担も増えていく─などの懸念もある。

中長期的にみると、2040年代をピークに高齢者数は減少していく一方、現役世代がそれを上回るペースで急速に減少していく非常に厳しい状況だ。

こういったなかで、被用者保険にどう対応していくかということだが、社会保険料の負担に耐えてもらうために賃金を上げていくことが重要となる。

合わせて、給付だけでなく、現役世代の負担に配慮しなければならない。そういう意味では、給付と負担の適正化を含め、様々な改革に取り組む必要がある。


─国民健康保険制度の現状と今後の課題

国民健康保険は加入者の年齢構成が高く、医療費が高い。また、所得水準は比較的低く、小規模な保険者は高額な医療費が発生すると保険料が変動し、財政運営が不安定になるという課題がある。

そういったなか、これまで都道府県単位の保険料水準の統一に向けた取り組みを進めてきた。6月には「骨太方針」を踏まえ、保険料水準統一加速化に向けた支援パッケージを取りまとめた。自治体とも相談、連携しながら保険料水準の統一に向けた取り組みを進めていきたい。


─2025年度の薬価改定についての方向性、保険外併用療養費制度の在り方の検討への対応

2025年度の薬価改定について、「骨太方針2024」は、▽イノベーションの推進▽安定供給確保の必要性▽物価上昇─など取り巻く環境の変化として3点が明記されている。

そのうえで、国民皆保険の持続可能性を考慮しながら検討していくことが基本的な考え方であり、これに沿って中医協で議論した結果を踏まえ、政府として対応していく。

日進月歩の医療技術、医薬品等の高度化に対応することと合わせ、保険外併用療養費制度の見直しを検討する必要がある。最先端の様々な医療技術、医薬品に対する国民のアクセスを確保していくことが大切だ。

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