健保ニュース
健保ニュース 2024年9月中旬号
厚労省が5年度概算医療費を公表
前年度比2.9%増の47兆円
3年連続で過去最大も コロナ禍前の伸び率に鈍化
厚生労働省は3日、「令和5年度医療費の動向」を公表した。医療保険と公費負担医療分の5年度概算医療費は前年度比2.9%増の47.3兆円で、4年度から1.3兆円増えた。3年連続で過去最大を更新したが、新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴う医科医療費の減少等の影響で伸び率は鈍化した。単価に相当する1日当たり医療費は同0.8%、患者数に相当する受診延日数は同2.0%それぞれ上昇。1人当たり医療費は同3.4%、1万2千円増えた。コロナの影響の少なかった元年度からの平均伸び率は2.1%増で、厚労省は、「コロナ禍前の水準に戻ってきている」と説明した。
医療保険と公費負担医療分の医療費を集計した概算医療費は、労働災害や全額自費の診療を含まない速報値で、国民医療費の約98%に相当する。
概算医療費の動向をみると、令和元年度43.6兆円(前年度比2.4%増)、2年度42.2兆円(同3.1%減)、3年度44.2兆円(同4.6%増)、4年度46.0兆円(同4.0%増)、5年度47.3兆円(同2.9%増)と推移してきた。
診療報酬改定、薬価改定の影響を除くと、高齢化や医療の高度化により毎年2%程度、伸びる傾向となっていたが、2年度は新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う受診控えや手術の延期、新たな生活様式の浸透などにより、概算医療費は前年度比3.1%、1.3兆円減少した。
その反動や通常の医療費の増加に伴い、3年度の概算医療費は同4.6%、2.0兆円増加。4年度も新型コロナの患者数が増えた影響等があり、同4.0%、1.8兆円増と高い伸びとなった。
5年度は、新型コロナの感染症法上の位置づけが5類感染症に移行した5月8日から診療報酬上の特例措置を縮小し、10月1日からは評価の減点など、さらなる見直しを行った影響等で、概算医療費は同2.9%、1.3兆円増に伸びが鈍化した。
新型コロナの影響が少なかった元年度から5年度までの概算医療費の平均伸び率は2.1%増となり、厚生労働省は、「コロナ禍前の通常の水準に戻ってきている」と説明した。
医療機関を受診した延患者数に相当する「受診延日数」は、人口減少に伴い平成28年度以降、マイナス1%弱の伸びで推移し、令和2年度は新型コロナの感染拡大の影響で前年度比8.5%減と大幅に低下。同3.3%増に反転した3年度に引き続き、4年度と5年度は同2.0%増のプラスの伸び率(元年度から5年度までの平均伸び率は0.4%減)となった。
これに対し、医療費の単価に相当する「1日当たり医療費」は、平成28年度以降、同2~3%程度の伸びで推移し、令和2年度は重度な患者の比重が大きくなったことで同5.9%に上昇。
一方、5年度は0.8%増(元年度から5年度までの平均伸び率は2.5%増)と伸びが鈍化し、医療費全体の伸び率は同2.9%増となった。
5年度は、いずれの診療種類別も対前年度比でプラス、元年度から5年度までの平均伸び率もプラスとなった。
厚労省は、5年度概算医療費の▽人口増の影響(前年度比0.5%減)▽高齢化の影響(同0.7%増)▽診療報酬改定等(同0.64%減)─を除いた医療の高度化等の伸び率は同3.3%増。休日数等補正後の伸び率は同2.7%増になるとした。
受診延日数は、▽入院(同2.3%増)▽入院外(同1.9%増)▽歯科(同0.7%増)▽調剤(同6.0%増)─と全診療種別で増加し、特に調剤の伸びが大きい。一方、1日当たり医療費は、▽入院(同0.8%増)▽入院外(同0.8%減)▽歯科(同1.2%増)▽調剤(同0.5%減)─となり、入院外と調剤は減少した。
元年度から5年度までの平均伸び率をみると、受診延日数は、▽入院1.4%減▽入院外0.4%減▽歯科1.0%減▽調剤1.3%増─で、調剤を除き減少。一方、1日当たり医療費は、▽入院2.8%増▽入院外2.9%増▽歯科3.2%増▽調剤0.5%増─となり、全診療種類別で増加した。
5年度の1人当たり医療費は前年度比3.4%増の38.0万円で、同1.2万円増加。年齢階層別にみると、未就学者が同6.7%増(元年度から5年度までの平均伸び率は4.6%増)と高い伸びを示す一方、75歳以上は同0.9%増(同0.4%増)にとどまった。
このほか、厚労省は、主傷病がCOVID-19であるレセプトを対象に5年度の医科医療費を集計すると、4400億円程度(医療費全体の0.9%)となることを明らかにした。新型コロナの5類感染症への移行に伴い、診療報酬上の特例措置を縮小した影響で、4年度(8600億円程度)から半減した。
被用者保険の医療費は
前年度比4.2%増に
75歳未満の医療保険適用分は、前年度比1.7%増の26.2兆円で、このうち被用者保険が同4.2%増の15.7兆円(全体の33.1%)、国民健康保険が同2.0%減の10.5兆円(同22.2%)となり、国保は令和4年度に引き続き減少した。
75歳以上の医療保険適用分は、同4.5%増の18.8兆円(同39.8%)。公費負担医療は、同3.6%増の2.3兆円(同4.9%)となった。
被用者保険は、1人当たり医療費が20.2万円で同4.3%増、加入者数が同0.0%減(本人同1.5%増、家族同2.3%減)の7754万人となった。
医療費の伸び率は本人が同5.2%増、家族は加入者数の減少に反し、同3.4%増加した。
国保は1人当たり医療費が被用者保険の倍となる40.0万円で、同2.7%増加。被用者保険への移行と高齢化に伴い、加入者数は同4.6%減の2633万人となり、医療費の伸びは減少した。
被用者保険と国保を合わせた未就学者は、1人当たり医療費が同6.7%増の26.1万円、加入者数は同4.2%減の557万人。医療費の伸び率は同2.2%増で、3年度の同18.4%増から伸び率は鈍化した。
75歳以上の医療保険適用分は、加入者数が同3.6%増の1947万人に増加し、1人当たり医療費は同0.9%増の96.5万円。加入者数の増加が医療費(前年度比4.5%、8000億円増)を押し上げた。
医科外来の伸び率が鈍化
6.3%から1.0%増に
診療種類別にみると、医科は前年度比2.1%増の35.1兆円で、入院が18.7兆円(前年度比3.1%増)、入院外が16.4兆円(同1.0%増)となった。
入院外は、新型コロナウイルス感染症にかかる医療費の減少等を要因に、前年度の6.3%増から伸び率が鈍化した。
歯科は同1.9%増の3.3兆円、調剤は同5.4%増の8.3兆円、訪問看護療養は同19.5%増の0.61兆円だった。いずれの診療種類別もプラスの伸び率となった。
調剤は、感染症にかかる治療薬の増加に伴い、処方箋枚数(受付回数)が増えた影響で5%を超える伸び率となった。
医療費の構成割合は、医科74.2%(入院39.5%、入院外34.7%)、歯科7.0%、調剤17.6%、訪問看護療養1.3%で、入院が最も多くを占めた。
入院は受診延日数が同2.3%増の4.4億日、1日当たり医療費が同0.8%増の42.4千円。入院外は受診延日数が同1.9%増の15.9億日、1日当たり医療費が同0.8%減の10.3千円で、入院外の1日当たり医療費が減少した。
病院の1施設当たり医療費は同2.9%増の31億1666万円で、大学が同5.4%増の222億1269万円、公的が同3.9%増の61億9119万円、法人が同1.4%増の19億6164万円、個人が同2.9%増の7億7841万円で、いずれも増加。
診療所の1施設当たり医療費は同1.1%増の1億1260万円で、小児科(前年度比1.8%減)、外科(同1.2%減)、その他(同0.1%減)を除き、増加した。耳鼻咽喉科(同8.2%増)は4年度の同20.2%増に引き続き大きな伸びとなった。
歯科は、受診延日数が同0.7%増の4.0億日、1日当たり医療費が同1.2%増の8.2千円。1施設当たり医療費は、歯科病院が同4.8%増の1億600万円、歯科診療所が同2.6%増の4744万円だった。
調剤医療費の73%が薬剤料
後発品数量は85%に上昇
調剤医療費の構成割合は、技術料が前年度比5.7%増の2兆2474億円(全体の27.2%)、薬剤料が同5.5%増の6兆41億円(同72.6%)、特定保険医療材料料が同1.2%増の162億円(同0.2%)で、薬剤料が依然、7割超を占める。
薬剤料の内訳をみると、全体の8割を占める内服薬が同5.0%増の4兆7245億円に増加。注射薬は全体の1割にとどまるが、同13.4%増と大きな伸びを示した。後発医薬品の薬剤料は、同3.2%増の1兆1611億円となった。
処方箋1枚当たり調剤医療費は、年齢とともに高くなり、最も高い80歳以上85歳未満(1万964円)は0歳以上5歳未満(3470円)の約3.2倍となる。
内服薬の処方箋1枚当たり薬剤料は同1.0%減の5334円で、これを分解すると、▽処方箋1枚当たり薬剤種類数が同1.0%増の2.79剤▽1種類当たり投薬日数が同3.4%減の27.0日▽1種類1日当たり薬剤料が同1.4%増の71円─となり、1種類当たり投薬日数を除き増加した。
内服薬を薬効分類別にみると、その他の代謝性医薬品8746億円、循環器官用薬の6806億円、中枢神経系用薬の6448億円、腫瘍用薬の6146億円が高く、その他の代謝性医薬品(前年度比6.2%増)と腫瘍用薬(同6.4%増)は大きく伸びた。
後発品の数量割合は、令和5年度末で85.3%となり、4年度末の83.7%から1.6ポイント上昇した。
後発品数量割合が80%以上の薬局の割合は82.4%で、4年度末に比べ4.0ポイント上昇。都道府県別にみると、沖縄県が91.2%と最も高く、東京都が81.9%で最も低かった。