健保ニュース
健保ニュース 2024年11月中旬号
産科医療特別給付事業
7年1月実施へ関係法令改正
佐野会長代理 保険契約を逸脱と問題視
社会保障審議会医療保険部会は10月31日、厚生労働省が提示した産科医療特別給付事業の対応案を大筋で了承した。
これを受け厚労省は、健康保険法施行規則等の一部改正、告示の新設にかかるパブリックコメントを経て、年内に改正省令・新設告示を公布、通知。令和7年1月1日から産科医療特別給付事業を実施するスケジュールを示した。
産科医療補償制度の運営組織である日本医療機能評価機構が実施主体の産科医療特別給付事業は、4年1月に行われた産科医療補償制度の補償対象基準の見直しにより個別審査が廃止されたため、個別審査で補償対象外となった脳性麻痺児を持つ保護者から、当該児について4年1月改定後の新基準を適用し、救済することを求める声が上がった。
その声を受け、自民党政務調査会少子化対策調査会・社会保障制度調査会医療委員会合同会議は5年6月28日に、「産科医療特別給付事業の枠組みについて」を取りまとめ、同年7月5日に厚労大臣に対し、事業設計や事業の適切な運用のための措置等を行うことを要請。
要請を踏まえ、厚労省は、この日の医療保険部会に、①個別審査で補償対象外となった脳性麻痺児等に対し産科医療特別給付事業を実施②今後、産科医療補償制度の補償対象基準等を見直す際には事前に厚労大臣に協議することとするため、健康保険法施行規則等を一部改正し、厚労省告示を新設─する対応を提案した。
①は、給付対象基準、除外基準、重症度の基準の3つの要件をすべて満たす場合に特別給付の対象として、1200万円を一括給付。7年1月から11年12月末までを申請期間とし、産科医療補償制度の保険契約の特約にもとづき返還された保険料を財源として活用する。
②は、産科医療補償制度における保険契約の要件に(1)産科医療補償制度の安定的な運営に重大な影響を及ぼすおそれがある事項を設定・変更・廃止する場合に、産科医療補償制度の運営組織はあらかじめ厚労大臣に協議している(2)返還保険料の運用、産科医療補償制度における分娩機関の掛金の軽減と厚労大臣が定めた事業のためにのみ用いることができる─ことを追加し、国による関与を明確化する。
(2)の事業は、厚労大臣が医療関係者、医療保険者その他の関係者の意見を聴いたうえで、産科医療補償制度の安定的な運営に必要であると認めたものに限ることとし、具体的には告示で産科医療特別給付事業を規定するとした。
健保連の佐野雅宏会長代理は、産科医療補償制度について、「保険者の立場でいうと、出産育児一時金の一部を保険料に充当しており、実質的な保険料負担者」と言及したうえで、「過去に遡って給付範囲を変更して適用する特別給付事業は保険契約の概念を逸脱している」と問題視するとともに、「産科医療補償制度は将来の妊婦の保険料負担の軽減に充当すべきもの」と指摘した。
そのうえで、産科医療特別給付事業を実施するにしても、今回限りの取り扱いとするよう要望したほか、国の直接の制度として運用できるよう見直しを行うべきとの考えを示した。
北川博康委員(全国健康保険協会理事長)は、佐野会長代理の意見に同調したうえで、「産科医療特別給付事業の取り扱いが前例とならないよう、留意する必要がある」と述べた。