健保ニュース
健保ニュース 2026年2月中旬号
日本医療政策機構が提言
高齢者医療の年齢基準を見直し
自己負担 段階的に引き上げ
日本医療政策機構はこのほど、「持続可能な保健医療システムへの道筋─社会的合意が期待される三つの視点─」と題する提言を発表した。高齢者医療制度の今後の負担のあり方について、高齢者の健康寿命の延伸や就業実態などを踏まえ、前期高齢者として区分される現行の65歳基準を見直すとともに、自己負担の水準を段階的に引き上げることを提案した。提言は、健保連の佐野雅宏会長代理も参画する産官学民のディスカッションメンバーによる討議を経て、「給付」「負担」「社会実装プロセス」の3つの視点から、持続可能な保健医療システムを次世代に継承するための方向性を取りまとめた。
提言の視点の一つの「負担」をめぐる状況については、令和5年度の国民医療費が約48兆円と過去最高を更新する中、少子高齢化と長期的な経済停滞が重なり、「若年層や現役世代の負担感は一層強まっている」と指摘した。
こうした問題意識のもと、高齢者医療制度のあり方に焦点を当て、65~74歳を「前期」、75歳以上を「後期」とする年齢区分で自己負担割合に差を設けている日本の仕組みを、「主要なOECD諸国の中でも極めて例外的であり、日本特有の制度構造」と位置づけた。
今後は健康寿命の延伸や就業・社会参加などの実態を踏まえ、「高齢者の65歳基準を見直すとともに、自己負担の水準を段階的に引き上げていく必要がある」と提案した。
また、高齢者世帯の約4割が住民税非課税世帯であり、その多くが保険料の減免措置を受けているが、資産状況が負担判定に十分に反映されていない現状を課題に挙げた。
資産分布の偏りにも着目し、所得のみを基準とする負担の設計には限界があると指摘。より公平な応能負担の実現に向けて、「世代間・世代内の公平性を高める負担構造へ転換する必要がある」とし、「所得と資産を組み合わせた負担制度」の確立を訴えた。
資産などを正確に把握するため、マイナンバーカードの取得と金融口座情報との連携を義務化するよう求めた。
また、少子高齢化に伴い社会保障財源の制約が強まることが予測される中、「医療財源の安定性を保ち、将来世代への過重な負担の先送りを避ける観点からは、消費税(付加価値税)の役割がこれまで以上に重要となる」とし、消費税率の段階的な引き上げを有力視した。
このほか、医療サービスの利用に応じた応益負担の考え方に基づいて、医療機関を受診するごとに数百円程度の基本サービス料を支払う定額負担の導入も提起した。
「給付」の見直しでは、患者の状態改善に効果の見られない「低価値医療」を対象から除外することや、自己負担割合の引き上げなどを提案した。
これにより、「低価値医療でない医療を公的な医療保険で支える」というメッセージを発し、「持続可能な保健医療システムの維持と発展に向けた明確な方向性を示すことができる」と強調した。
給付の現状と制度設計の方向性については、「限られた財源の中で、負担を抑えたまま給付を維持し続けることは現実的ではなく、むしろこのままでは基本的な医療まで圧迫されかねない」と危機感を示し、真に必要な医療に資源を集中させるべきとしている。
低価値医療については、「患者の健康状態をほとんどまたは全く改善しない医療行為」と定義し、その代表例として、ウイルス性の風邪に対する抗菌薬の処方や、適応外や不必要な検査・手技などを挙げた。
その上で、「患者にとって利益がないどころか、副作用を伴う場合も多く、限られた医療資源の浪費にもつながる」と厳しく批判。低価値医療が一部の医師や地域で多く提供されているとする研究者の論文を踏まえ、今後はレセプトや電子カルテなどのデータを活用し、低価値医療を定量的に把握・評価するための基準を整備するとともに、状況の改善につなげることが不可欠とした。
また、医療技術の進歩による高額な医薬品の登場は、根治など治療効果が期待される一方で、医療費や財政への影響が一段と大きくなるとの認識を示した。
こうした点も考慮し、医療上の重要性や疾病などに応じて保険給付率を変える諸外国の制度を参考に、価格や給付率、給付期間を柔軟に調整できる仕組みを導入することが望ましいと言及した。
さらに、高齢者医療については、▽まず税や社会保険料を含む歳入の確保や制度の効率化を通じて、負担の最適化を図る▽それでも財政的な余地が不足すると判断される場合に、給付の優先順位を社会的合意に基づき検討する─という手順を重視した。
視点の「社会実装プロセス」は、▽保険者や審査支払機関等が連携し、エビデンス創出に向けた社会基盤を強化する▽複線的な制度を見える化するとともに、共通業務を集約化して効率性と透明性を高める▽国民的な対話の場を設け、若年層や現役世代の参画を促進する─を掲げた。〈ディスカッションメンバーは次の通り。敬称略〉
▽天野慎介(全国がん患者団体連合会理事長/グループ・ネクサス・ジャパン理事長)
▽安藤伸樹(前全国健康保険協会理事長/東和薬品社外取締役・監査等委員)
▽後藤励(慶應義塾大大学院教授)
▽佐野雅宏(健康保険組合連合会会長代理)
▽鈴木康裕(国際医療福祉大学長/初代厚生労働省医務技監)
▽濱田いずみ(ノボ ノルディスク ファーマ取締役医療政策・渉外本部本部長)
▽安川健司(アステラス製薬代表取締役会長)
▽矢野康治(国際医療福祉大社会保障政策研究所長/元財務省事務次官)
▽乗竹亮治(日本医療政策機構代表理事・事務局長)