健康コラム
離れて暮らす親のケア vol.89
NPO法人パオッコ理事長の太田差惠子さんが、親と離れて暮らす子の介護に関する悩みや不安について、事例を交えながら親のケアを考えていきます。
【コラム執筆】
NPO法人パオッコ
~離れて暮らす親のケアを考える会~
理事長 太田差惠子
60代の親が倒れたとき
「人生100年時代」というキーワードが繰り返し報道されています。2017年の日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳。100歳以上の人口も約7万人に上ります。
長生きの時代になっていると知るほどに、60代、70代の親が倒れると、子としては受け入れ難い気持ちになることがあるようです。
M子さん(38歳)の両親は東北地方の実家で2人暮らししています。両親とも60代ですが、昨年、父親がくも膜下出血で倒れ、左半身まひと高次脳機能障害が残りました。両親を支えるために、M子さんは週末を利用して月に2回帰省します。
父親は歩行が難しいのに、歩こうとしては転倒。認知症のような症状もあり、母親はへとへとの様子だとか。主治医からは施設介護を提案されています。母親は気持ちが傾きつつあるようですが、M子さんは「施設には入れたくない」と言います。「まだ父は60代です。昔から『家』が好きですし、この年で施設に入れるのはかわいそう。もっとリハビリを頑張れば回復するかもしれない。かといって母が倒れたら困るので、私が仕事を辞めて、実家に戻ることを検討しています」。
正解のない問題であり、周りがとやかく言えることではありません。しかし、ここは冷静に。母親が疲れ果て、M子さんが仕事を辞めて実家に戻ることを父親は望んでいるでしょうか。
この先、M子さんの人生も100歳超まで続く可能性があります。親のことは大切ですが、M子さん自身の10年、20年、30年先の生活設計を考えることも忘れないでいてもらいたいものです。