ほっとひと息、こころにビタミン vol.20
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
ネガティブ感情はこころのアラーム
ずっと前のことになりますが、不安を和らげる薬「抗不安薬」が開発されたとき、「これで私たちは不安から解放される」と言った人がいます。ところがそれを聞いたある高名な精神科医が、「そのようなことにはならない」と断言したそうです。
その結果はどうなったでしょうか。そう、私たちは不安からは解放されませんでした。不安やうつ、怒りなどのネガティブ感情は、不快ではありますが、私たちにとって必要な感情なのです。それは、こうした感情は私たちに、今、身の回りで起こっていることに注意するように伝えるアラームだからです。
落ち込むのは、何か良くないことが起きているかもしれないとこころが伝えているときです。不安は危険に、怒りは不当な扱いに対して浮かんでくる感情です。そうした感情は、私たちが安心して生きていくために必要なのです。ですから、そうした感情が浮かんだときには、何か問題がないかどうか、少しだけ立ち止まって周りを見回す必要があります。
しかし、その一方で、その感情に振り回されないようにすることも大事です。アラームが必ずしも正確に作動するとは限らないからです。誤作動にすぐに反応してしまうと、混乱して問題に対処できなくなります。
そうした状態になるのを避けるためには、アラームが鳴ったときに、自分の考えを振り返ってみると良いでしょう。自分のこころの中に目を向けて、何に落ち込んでいるのか、何を心配しているのか、何に腹を立てているのか、自問自答することで冷静になれます。どう行動すれば良いか考えることができるゆとりも生まれてきます。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。