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ほっとひと息、こころにビタミン vol.41

精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。

【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕

人のつながりが持つ意味

年を追うごとに暑さが厳しくなっています。暑い日が続くと、思春期のころに読んだ石川啄木の文章を思い出します。その中で啄木は、汗まみれになりながら、二階の窓から通りを眺めています。

通りでは、行き交う人たちが「暑い」「暑い」と言い合っています。文章からも、実に暑そうな雰囲気が伝わってきます。その情景を眺めている啄木は「人間は…孤高の動物ではない」と書き、いくら「暑い」と言っても汗が減りはしないのに、「暑い」と言い合うのは、1人で泣いたり笑ったりしないのと同じ、自己表現をしようとする「人間の本能」だと書きます。

人間関係で大事なのは、「暑い」という言葉の意味ではなく「暑い」と言い合うことでお互いの気持ちを通わせ合うことなのだと、啄木は言いたいのでしょう。私たち人間は、暑さ寒さの自然現象や災害などの厳しい状況に出合うと、みんなで力を合わせてその状況を乗り切ってきました。こうした人と人とのつながりは、今なお続くコロナ禍でこれまで以上に大切になってきています。

さて、この文章は妙に強く私の記憶に残っていますが、それは、中学から親元を遠く離れて生活することになったことが影響しているのでしょう。1人暮らしをはじめた私は、涙が出るほどに寂しい思いをしながら、下宿屋の二階にあった部屋から人が行き交う道を眺めていました。その後、私はその寂しさからなかなか立ち直れないで苦しむことになります。 その体験を思い出しながら、暑いからといって家に閉じこもりきりにならず、感染対策をしながら人間的交流も大切にしてほしいと考えました。

大野 裕(ゆたか)

ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。

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