ほっとひと息、こころにビタミン vol.45
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
コロナ体験から分かった触れ合いの大切さ
新型コロナウイルス感染が拡大してから2年近くたちました。昨年の夏前になりますが、ウイルスに対する不安や自粛生活のためにストレスを感じている人たちが多いと考えて、ユーチューブに、AIとの対話を通してこころを整える対話型プログラム「こころコンディショナー」(チャットボット)の試作版を無料公開。その背景にある私の専門の認知行動療法の考え方を解説した動画「こころコンディショナーチャンネル」もユーチューブにアップしました。やはりストレスを感じている人が多かったようで、短期間に多くの方に利用していただき、デジタルツールが新しいこころのビタミンになる可能性を感じました。
その一方で、私たちは最終的には人間的な触れ合いを求めていることも分かりました。「チャットボットを使っているうちに人と話したくなった」と書き込んだ人がいました。それを見て、配偶者や友人など信頼できる人にやさしく手を握られると、活発すぎる脳の働きが静かになったという脳研究を思い出しました。
悩んでいるときの脳を調べると、前頭葉の考える脳の部分が活発に動いています。だからと言って、良い考えが浮かんでくるわけではなく、あれこれ良くない考えが頭を駆け巡っているのです。そうした脳の暴走状態を自分一人で止めるのはなかなか難しく、考えないようにするとさらに考えが加速します。
そうしたときに、親しい人に寄り添われると気持ちが落ち着くのです。新型コロナの体験を通して私たちは、こうした温かい人間的な触れ合いの大切さをあらためて認識することになりました。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。