ほっとひと息、こころにビタミン vol.49
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
人の多様性を生かし信頼しあえる社会を
コロナ禍が想定以上に長引いています。最初の頃、2、3年は続くと予想する専門家もいましたが、多くの人はそんなに長く続かないだろうと期待まじりに考えていたように思います。私もその一人でしたが、結局のところ、2年経ってもまだ続いています。
このこと自体はつらいのですが、コロナ禍で新しく見えてきたこともあります。中でも、人間の多様性を感じられたのは、私にとって大きい意味がありました。在宅勤務を積極的に取り入れている企業で働いている人の話を聞くと、在宅勤務について実にいろいろな意見があるのが分かります。
在宅勤務のおかげで通勤時間が減り、自分や家族のために使える時間が増えたと喜んでいる人がいます。嫌な上司や同僚と無理に話さなくて済むようになって楽になったという人もいます。その一方で、仕事の仲間と会う機会が減って寂しくなったという人や、上司や先輩から仕事の指導を受けることができず心細いと感じている人もいます。
実に人さまざまですが、コロナ前に、あるIT企業で勤務形態を全く社員に任せるようにしたところ、退職率が大幅に減ったという話を聞いたことを思い出します。こうした大胆な人事的配慮は個人で仕事をすることが比較的多いIT企業だからできた面もあるのですが、その背景には、お互いを信頼しあえる人間関係を尊重していることも影響していると考えました。
今後の社会の持続的発展のためには、それぞれの人の多様性を生かし、それぞれの人がお互いに信頼しあえる社会環境を作ることが大事になるとあらためて感じています。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。