ほっとひと息、こころにビタミン vol.64
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
主体的な判断を大切に
新型コロナウイルスが、インフルエンザ相当の5類に位置付けられ、マスク着用が個人の判断に委ねられることになりました。しかし、「個人の判断」と言われてもマスクを外すことにはかなり抵抗感が強いようで、私が住んでいる東京都内で周りを見ても、マスクを外している人は2割くらいの印象を受けます。
まだ多くの人がマスクを着けている理由はよく分かりませんが、感染の再拡大を警戒している人もいれば、多くの人がマスクを着けている中で自分だけが目立つことへの抵抗感のためにマスクを外せないでいる人もいるだろうと思います。私はどうかといえば、医療機関など限られたところ以外は、基本的にマスクを外すことにしています。それは、自分の行動について、自分の主体的な判断を大切にしていきたいと考えているからです。
私たちは、例えばマスクを着けた方が良いかどうかを含めて、ある行動が正しいかどうかを一律に判断する傾向があります。細かい状況を考えながら判断するよりも、どちらかに決めた方が楽だからです。しかし、多くの行動は状況によってその意味合いが違っていて、一律には決めることができません。
新型コロナウイルス感染のリスクに関していえば、航空機や電車など、換気の良い状態では低いと考えられます。一方、感染しやすい身体的不調を抱えている患者の方などが多い医療機関では、可能な限り感染のリスクを下げなくてはなりません。
新型コロナ感染症は、状況に応じた丁寧で主体的な判断の大切さをあらためて考えさせる機会になったと思います。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。