健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
株式会社NSD
自分の健康を気遣える社員をつくる健康施策を推進
株式会社NSDは、ソフトウエア開発やITインフラの構築などITソリューションを提供している従業員4,380名(連結)の企業。残業時間の削減など働き方改革の推進とともに従業員の健康増進施策を積極的に展開してきた同社は、2019年にそれまでの取り組みを体系立てて整理し、健康経営推進方針を社内外に発信。2017年度から実施している「健康ポイント制度」をはじめ、社員目線で工夫を凝らした健康イベント等で社員の健康行動を促している。その取り組みは高く評価され、今年初めて健康経営銘柄に選定された。
同社の健康経営の取り組みについて、執行役員・三池真優子さん、コーポレートサービス本部人事部長・横田圭一さん、同部健康推進室・角田智子さん、イノベーション戦略事業本部医療ヘルスケア営業推進部長・生田目俊雄さん、NSD健康保険組合常務理事・内山一平さん、同事務長・石川恒雄さんに聞いた。
【株式会社NSD】
設立:1969年4月8日
本社:東京都千代田区神田淡路町2-101ワテラスタワー
代表取締役社長:今城義和
従業員数:4,380名(連結)、3,133名(単独)(2024年3月末現在)
──健康経営度調査に沿って健康施策を体系的に整理
株式会社NSD 人事部長
横田 圭一 さん
横田さん ▶
当社の経営の基本方針の柱の1つに、「社員が最大の財産であることを認識し、社員一人ひとりの持つ無限の可能性を信じ、健全で働きやすい環境を提供し、夢と誇りを持てる働きがいのある会社にしていきます」ということがあります。この「社員を大切にする」という基本方針が今の健康経営につながっています。残業が多くなりがちな業界で、会社として残業を減らしていこうと本格的に働き方改革を進める中で、社員の健康増進にも取り組んできました。
三池さん ▶
当時私も携わっていたのですが、2017年1月号の社内報で「あなたは健康ですか?」というタイトルで、健康をテーマに初めて特集を組みました。経営層から「健康経営を考えていかなければいけない」との考えが示され、まずは、社員が自分の健康に関心を持ってもらうことを主眼に特集を作りました。全社員に向けて健康について働き掛けたのはこれが最初でしたね。
NSD健康保険組合
常務理事 内山 一平 さん
内山さん ▶
健保組合としては、スコアリングレポートを見て衝撃を受けました。保険料率を低く設定できていたのは年齢の影響であって、生活習慣や健康状態は決して良いわけではないことが分かったからです。これで健康施策の推進に火が付きました。
石川さん ▶
健保組合では独自に保健事業を企画立案・実施していたのですが、2017年に健康管理事業推進委員会を設置して、事業主と連携して取り組むようになりました。
角田さん ▶
これまで社員のニーズを踏まえながら、健康施策はさまざま実施していたのですが、体系的に整理していませんでした。そこで、健康経営度調査に沿って整理し、2019年に初めてホームページで対外的にも健康経営について発信しました。
横田さん ▶
健康経営の推進体制は、社長を健康経営責任者、人事担当役員を施策企画・実行のトップとし、人事部が医療ヘルスケア営業推進部およびNSD健保組合と連携して推進しています。定期的な会議はありますが、日常的に頻繁に相談したり、打ち合わせをしたりして、スピード感を持って進めているのが特徴です。
石川さん ▶
日常的に垣根を取り払って本音で話ができています。
──健康アプリを活用した新イベントが大好評
株式会社NSD 執行役員
人事部担当、総務部担当
三池 真優子 さん
三池さん ▶
私は健保組合の理事長を兼務していますが、健保組合の役割としては、病気になったときだけでなく、病気にならないように、元気で健康であるために加入者の皆さんが享受できるものを提供していくことであり、事業主もそれを望んでいます。
横田さん ▶
現在、一番力を入れているのが2022年10月から実施している自社開発の健康アプリ「CAReNA(カレナ)」を活用した新イベントで、アプリに登録された累積歩数をもとに疑似的な日本一周を行うウォークラリーです。成果が分かりやすく、社員の平均歩数は大幅に増加しています。
生田目さん ▶
医療ヘルスケア営業推進部は健康アプリ「CAReNA」を社内で実証しながら外販している部隊で、2017年からこのアプリを活用して歩数を中心とした「健康ポイント制度」を始めました。コロナ禍では、多くの社員が歩く機会を失い、歩数が減ってしまいました。そこで、健康づくりにあまり興味がない人でも参加してみたくなるような、楽しいイベントを、と始めたのが日本一周ウォークラリーです。
内山さん ▶
チェックポイントに到達すると、ご当地名産品が送られてくるという仕掛けで、家族や職場での話題づくりに一役買っています。名産品選びは大変ですが、それもまた1つの話題になっています。
角田さん ▶
現在、ほぼ100%の社員がアプリを導入していて、約7割が継続的に使っています。ウォークラリーを始めてからアクティブな社員が増えました。つまり、アプリを見る人が増えたので、アプリの機能を使ってアンケートを取ったり、情報を頻繁に通知したりするなど、より効果的にアプリを活用できていると思います。
株式会社NSD
医療ヘルスケア営業推進部長
生田目 俊雄 さん
生田目さん ▶
部署対抗イベントなども実施して、コミュニケーションの活性化やエンゲージメント強化の一助になっています。
三池さん ▶
日本一周ウォークラリーはスタートからゴールまで早くても約3年はかかるので、現在も進行中の取り組みです。長丁場ですが、それが歩くことの継続にもつながっています。ウォークラリーにはもちろん社長も参加していて、ちょっとしたアプリの不具合にも最初に気づくぐらいのヘビーユーザーで、出張先でも時間があれば歩いています。
角田さん ▶
会社には、NSDを働きがいのある会社にすることをミッションとする、有志の社員から成る「わくわくNSD」というプロジェクトチームがあります。部門を超えたコミュニケーションの活性化を目的として部署対抗ボーリング大会やフットサル大会を開催したり、直近ではオリンピックのパブリックビューイングを行ったりしました。会社が開催する運動会にも協力するなど、積極的に活動していて、活気ある職場づくりに貢献しています。
──職場に浸透させる鍵は目標設定と上長
三池さん ▶
自分の健康に関心を持ってもらい気を遣ってもらうには、ヘルスリテラシーの向上が重要です。ですので、毎年、eラーニングを実施するなど、施策を工夫しています。
横田さん ▶
人事部としては職場に浸透させる鍵となるのは上長だと思っています。例えば残業時間削減や有給休暇取得でも、上司から「効率よくやって早く帰ろう」「しっかり休んで」といった声掛けがあるだけで違ってきます。
三池さん ▶
月例の役員会議でも健康に関することを必ず話すようにしていますし、社員が健康であることが第一、ということをトップが要所要所で発信してくれているので、管理職にも伝わりやすくなっていると思います。目指す目標をしっかり設定すれば、それをきちんとクリアする文化が当社にはありますね。
NSD健康保険組合
事務長 石川 恒雄 さん
石川さん ▶
健保組合としては、特定保健指導実施率の向上と、ご家族の健康支援が課題ですが、特定保健指導は、就業時間内の実施について事業主の了解が得られたので、今後に期待しています。特定保健指導への参加も、人事部からメールを送っていただくだけで反応がかなり違うので、被扶養者の特定健診受診促進についても、事業主の力をお借りしたいと考えています。
内山さん ▶
コロナ禍において私たちは、新型コロナワクチンの職域接種を一般企業の中で最も早く実施しました。その際には、社員全員と家族、ビジネスパートナーも含めて対応しました。家族も含めて対応するというのが、会社の基本的なスタンスです。ご家族への働き掛けも期待しています。
──何でも相談できる窓口を設置 保健師が対応
三池さん ▶
現在、保健師が東京に2名、大阪に1名おり、人事部所属ですが独立した健康相談室を設けています。心身の健康に関する相談を誰でもいつでもできるようにしています。
内山さん ▶
当社は顧客先に常駐して働いている社員が多く、何かあったときに相談してもらえることが一番大事だと思っています。そのための意識付けにも力を入れています。最近は女性社員が増えてきたこともあり、女性特有の健康問題の相談が増えています。また、部下の様子を心配して問い合わせがくることも増えました。何かあったら健康相談室に相談してください、ということを地道に言い続けた結果だと思います。とはいえ、相談室の連絡先を常に覚えている人は少ないと思うので、毎月1回、全管理職に「何かあったらここに相談を」と、相談室の連絡先を記したメールを送っています。忙しく働いている管理職の手間を少しでも減らすことが重要だと思っています。
株式会社NSD
人事部健康推進室
角田 智子 さん
角田さん ▶
心身の不調に関する相談については管理職向け、社員向けにガイドラインを作成して、どのような状況になったら相談すればよいか、相談した後どうなるのか、具体的にフローを示しているので、安心して相談できます。
横田さん ▶
年々、健康施策は充実してきています。しかしながら、社員の健康改善にはまだ届いていないと感じています。今の施策をより効果的なものにしていくことが、直近の課題だと思っています。
内山さん ▶
例えば、11月に健康イベントを実施する際には、10月に告知します。そうすると、10月もアプリへのアクセスが増加します。つまり、お知らせをすることが行動を促すためには大事なんですね。受け取る側からすれば、会社や健保組合からの情報は溢れる情報の中の1つですから、しつこいように思えてもお知らせを続けることが、意識を持ってもらうには重要なのかもしれません。
三池さん ▶
事業部長と一般社員(健康推進員)から成る健康推進会議を半期に1回開催していますが、ここで健康経営施策について意見をもらうことにしています。これまで以上に、社員が自身の健康に関心を持って気遣えるように、折に触れて発信していきたいと思います。