健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
浜松ホトニクス株式会社
脈々と受け継がれる社員の健康づくり
浜松ホトニクス株式会社は、1953年に「浜松テレビ」として創業以来、「光」の研究とその成果を生かした製品開発、高性能のセンサや光源などの製造・販売を行っています。その製品・技術は、宇宙、通信、医療、バイオテクノロジー、半導体などさまざまな分野で利用されており、2002年に小柴昌俊氏(東京大学特別栄誉教授)、2015年に梶田隆章氏(東京大学宇宙線研究所長・東京大学特別栄誉教授)がノーベル物理学賞を受賞した研究で用いたニュートリノ観測のための装置にも同社のセンサが使われています。同社では、社員は経営の基盤であり財産であるという考えのもと、創業当時から社員を大事にする風土があり、50年以上社員の健康づくりを行ってきました。2018年には健康経営優良法人に認定されています。その具体的な取り組みについて、話を伺いました。
※「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
【浜松ホトニクス株式会社概要】
設 立:1953年9月29日
代表者:代表取締役社長 晝馬 明
所在地:静岡県浜松市中区砂山町325-6 日本生命浜松駅前ビル
従業員数:3,357名(単体、2017年9月末日現在)
【ホトニクス・グループ健康保険組合概要】
加入事業所数:8社(2018年3月末日現在)
加入者数:8,023名 ※被扶養者3,949名含む
──社員の健康づくりに取り組まれるきっかけや背景などについてお聞かせください。
浜松ホトニクス株式会社
理事・総務部長 南雲 幸一 さん
社員の健康づくりは、50年以上にわたり行ってきました。西洋の幸運の女神「フォーチュン」の前髪をつかむためには先回りしなければならない――。当社では、この言葉とともに新しいものを生み出す創業者の心持ちが現在まで脈々と受け継がれています。こうした未知未踏の領域を追求するためには、人の技術・知識が経営の基盤となることから、創業当初から社員の健康が重要視されてきたのだと思います。
そもそものきっかけとしては、浜松テレビ時代に遡りますが、製造現場において中腰の体勢で作業することが多かったことから、経営者が腰痛予防として社員の体力づくりを取り入れました。以前は「グリークデー」と呼ばれる、月1回土曜の出勤日に社員が一堂に会する日を設けていました。グリークデーでは、社長の講話や地元の国立大学から講師を迎えた運動(体操)指導、「自覚症状調査」という30項目の質問に答える疲労度のチェックなどを行っていました。一方、1983年に健保組合が設立されて間もなく、社員自身の健康に対する認識を深めてもらうことを目的に体力測定をスタートし、現在も継続しています。
──具体的にはどのような取り組みを実施していますか。
体力測定や歯科検診、がん検診(PET検診)、婦人科検診といった検診事業、ウオーキングなどを、健保組合と協力して実施しています。
体力測定では、毎年健保組合の職員と健康運動指導士が全事業所に出向き、握力や長座体前屈、閉眼片足立ちなどを測定します。全社員が対象ですが、測定前にその日の体調に関するいくつかの問診を行い、血圧を計測したうえで、問題がなければ参加してもらいます。結果は、過去5年分が経年で見られる形で通知し、毎年の参加率は85%前後で推移しています。体力測定では、一緒に測定する仲間と比較したり、前回の結果と比較したりすることで自身の体力の現状を知ることができます。複数の部署にまたがり参加してもらうことから、社内のコミュニケーションの場になっているようにも感じます。
浜松ホトニクス株式会社
総務部厚生グループ・主任部員
中嶋 由晴 さん
体力の維持、向上のための施策としては、健保組合が主催となり、熊本大学の教授を講師に招き「ボディデザインスクール」(※)という、食事と運動の両面からライフスタイルを改善する学びの場を提供しています。社員だけでなく、家族も一緒に参加でき、スクール参加後には「本気の1ヵ月」として、学んだ内容を実践しています。その中で、スロー筋トレは、会議室といった小スペースで行うことが可能で、昼休みや終業後を利用して取り組んでいます。参加者からは「健康について考えるいい機会になった」「どうしたらカラダづくりができるかを学ぶことができた」など、うれしい反響をいただいています。また、「本気の1ヵ月」終了後も独自でコミュニティを作り、継続している事業所もあります。このほか、月20万歩を目標に歩数を競うウオーキングイベントも行っています。
歯科検診は、30年ほど継続しています。また、会社としてPET関連の事業を行っていることから、40歳以上の社員と家族の希望者を対象に、健保組合と事業所が協力してPET研究検診(がん検診)を実施しています。
健康づくりに関する情報は、健保組合が年3回発行している広報誌『健保だより』や健保組合のホームページを通じて発信しています。健保組合は縁の下の力持ちと言われ、事業所とあまり接点がないと言った話も聞かれますが、当社の場合は、健康づくりを共に継続してきたことから、とても身近な存在となっています。
会社としては、社員の親睦と福利厚生のための「光友会」が、年1回の運動会や夏祭りを実施するほか、36に及ぶ体育部や文化部、同好会を組織して、年間を通じた練習や大会への参加、イベント開催などの活動をしています。光友会のイベントは、社員だけでなくその家族も参加できます。
浜松ホトニクス株式会社
総務部厚生グループ・専任部員
菅沼 要一郎 さん
さらに、安全衛生委員会と保健師、健保組合が協力して、各事業所の健康課題に応じた健康づくりを実施しています。たとえば食生活の改善をテーマに減塩に取り組んでいる事業所や独自にウオーキングイベントを実施している事業所もあります。全事業所の安全衛生委員長と関係者が集まり隔月で開催している本部安全衛生委員会で、情報の共有を図り、会社全体の方針を決めています。安全衛生委員会の内容は社員にもフィードバックしていて、たとえば全体として肝機能があまり良くないと指摘された事業所の社員は、あらためて自身の健診結果の肝機能項目を確認するといった行動にもつながっています。また、社員の生活習慣予防として、特定健診・特定保健指導にも力を入れており、保健指導は在籍する保健師と協力して、高い実施率を維持しています。
※「ボディデザイン」は日本ボディデザイン医科学研究所の登録商標です。
──健康経営優良法人2018(ホワイト500)への認定についてお聞かせください。
健康経営の取り組みについては2014年に経済産業省が『健康経営度調査』を開始以降、毎年回答してきました。▽経営理念・方針▽組織体制▽制度・施策実行▽評価・改善――の4つの側面から評価されますが、これまで実施してきた事業に加えて、条件を満たしていなかった「経営トップによる健康経営基本方針の明文化・社内外への周知」を強化しました。それによって、認定基準をすべて満たしただけでなく、5つ星評価をいただくことができました。健康づくりは、これまで長年行ってきたことなので、社員から取り立てて反響はありませんが、外部からの問い合わせは増えました。
──現状抱えている課題などはありますか。
ホトニクス・グループ健康保険組合
常務理事 仲瀬 重樹 さん
最近では、若年層の運動不足、朝食の欠食など食生活の乱れによる体重増加が問題として挙がっています。こうした課題の解決に向けて、若年層への栄養教育などを計画しています。若いうちから社員に健康意識を植え付けることの重要性を実感しています。
また、家族の健診受診率が50%にとどまっていることも課題です。現況調査をしてみると、家族は2~3年に1度のペースで受診しているといったケースもあり、その頻度を毎年に変えることで受診率は上がると思いますが、こうした行動変容はなかなか難しいと感じています。
ホトニクス・グループ健康保険組合
川村 良 さん
ほかには、効果検証が課題として挙げられます。これまで当たり前に行ってきた健康づくりは、数値化していた部分もありますが、数値目標をとくに意識せずに実施していたところもあります。そのため対外的に公表できるようにどれだけ効果が上がったかなどを数値化し、PDCAサイクルを回して、年々目標値を上げていくうえで、根拠に基づいた事業の展開に意識的に取り組みたいと思っています。
浜松ホトニクス株式会社 理事・総務部長 南雲 幸一 さん
「これまで実施してきた事業を見える化して、効果検証していきたいと思います」
浜松ホトニクス株式会社 総務部厚生グループ・主任部員 中嶋 由晴 さん
「体重の増加などが若年層に多く見られるため、若いうちに健康を意識してもらえるよう取り組んでいます」
浜松ホトニクス株式会社 総務部厚生グループ・専任部員 菅沼 要一郎 さん
「今回の健康経営優良法人認定を新たな一歩として、今後も健康づくりの施策を実施していきたいと考えています」
ホトニクス・グループ健康保険組合 常務理事 仲瀬 重樹 さん
「社員の健康づくりを推進するうえで、社員を動かすためには事業主の協力がなくては遂行できません」
ホトニクス・グループ健康保険組合 川村 良 さん
「社員が元気に働けるように、体力測定などを通じて、今後もよりよい健康管理を行っていきたいです」