健康コラム

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

株式会社ニチレイ

企業、健保組合、労働組合の三位一体で取り組む健康経営

 冷凍食品でおなじみの株式会社ニチレイは、安全な食品の安定的な供給を使命に日本の食生活を支えてきた。2005年には持株会社体制に移行。加工食品事業や低温物流事業、水産・畜産業などを展開している。事業内容が多岐にわたり、社員の働き方も事業所によりさまざまだが、17年から3年連続で健康経営優良法人(ホワイト500)に認定されている。持株会社として取り組む健康経営と認定に至る経緯について、ニチレイ健康保険組合常務理事兼ニチレイ人事総務部ニチレイ健康推進センター所長・後藤浩章さん、ニチレイ健康保険組合事務長・奈良豊子さん、ニチレイ人事総務部ニチレイ健康推進センター係長・園田愛望さん、同保健師・関範子さん、ニチレイ労働組合中央執行委員・金谷雄太さんに話を聞いた。

【株式会社ニチレイ】
設 立:1945年12月1日
本 社:東京都中央区築地6-19-20 ニチレイ東銀座ビル
代表取締役社長:大櫛 顕也
従業員数(連結):15,787名

──健康づくりに取り組む背景


ニチレイ健康保険組合常務理事
兼ニチレイ人事総務部
ニチレイ健康推進センター所長
後藤 浩章 さん

後藤さん ▶

 持株会社体制になってから、従業員の健康管理が各事業所任せになってしまい、健康診断を実施するだけでおしまいという形になっていました。このような状況を改善するため、ニチレイでは15年7月に人事総務部の中に「健康推進グループ」を設置し、「健康マネジメント」と銘打って健康経営を始めました。

 しかし、専門部署を設けたものの、何から手をつけて良いか分かりませんでした。そこで、外部のコンサルティング会社に依頼し、健康経営の視点からアドバイスを受けることにしました。


ニチレイ健康保険組合事務長
奈良 豊子 さん

奈良さん ▶

 健康経営の視点からの分析は新鮮でした。医療専門職を増やす必要性がみえて、組織改革のきっかけになったと思います。

後藤さん ▶

 18年4月には「健康推進グループ」を「健康推進センター」に名称変更しました。従業員の健康を守るためには、持株会社の1グループでは不十分と考えました。現在、健康推進センターは常駐の医療専門職4人、事務職4人、非常勤の産業医4人で構成されています。

──健康経営優良法人認定の経緯

 コンサルティング会社のアドバイスで、健康経営銘柄のエントリーシート(健康経営度調査)の項目をクリアすることが産業保健のレベルアップにつながると分かりました。そこで、16〜18各年度の中期経営計画の重点施策に健康経営を落とし込み、この3年間の間に健康経営銘柄に選定されることを目標にしました。取り組みを始めてから、健康経営優良法人などの顕彰制度が設けられたので、これらの認定を受けることも目標に加えました。

 結果として、17年から3年連続で健康経営優良法人に認定されました。健康経営銘柄は、次の中期経営計画期間中の選定を目指しています。

──具体的な取り組み


ニチレイ人事総務部
ニチレイ健康推進センター保健師
関 範子 さん

関さん ▶

 3年前から健康診断の受診勧奨と、健診結果を踏まえた個別アプローチを始めました。どちらも当時のニチレイにとっては新しい取り組みでした。

園田さん ▶

 受診勧奨をしても健診受診率はなかなか100%になりませんでしたが、各事業会社の管理部門の協力を得て、場合によっては未受診者本人に加え上長や事業所の責任者などへの説明を続け、グループ全体の理解は徐々に深まりました。その結果、18年度に初めて従業員の健診受診率が100%になりました。

後藤さん ▶

 健診結果を受けた事後フォローでは、健康推進センターの保健師が全国の従業員と面談をしています。遠方の事業所の従業員とはスカイプを利用するなどして面談します。ニチレイでは、工場のラインに立つ従業員の多くは会社のメールアドレスを持っていません。また、全ての従業員にパソコンが支給されている訳でもありません。このような従業員に対しては、本社からカメラ付きのノートパソコンとモバイルWi―Fiルーターを宅配便で送っています。これにより、職場や職種に関係なく、全国どこでも面談可能です。


ニチレイ人事総務部
ニチレイ健康推進センター係長
園田 愛望 さん

園田さん ▶

 健康診断は年に2回行っていましたが、特定業務従事者以外は法令的にも義務がないため1回にしました。その代わりに、事後フォローの充実や健診と同時にがん検診を受けられるようにしました。とくにがん検診では、初年度から初期がんの早期発見や進行がんの発見にもつながり、大きな成果があがっています。

後藤さん ▶

 検診でがんが見つかる人はまれですが、この人たちのためだけでも導入した意味があると考えています。

奈良さん ▶

 コンサルティング会社からは、女性のがん検診は職域で行うべきと指摘されました。当初は全く無理だと思っていましたが、健康診断の実施方法の検討を重ねるうちに、マンモグラフィー検診車の手配が可能になり、女性のがん検診の導入に結びつきました。なんでも言ってみるものですね。

 その他には、全社の健康診断の状況と医療費の状況を分析し、「健康レポート」にまとめて発表しています。加えて、8〜9月には「健康白書」を作成し、分析結果を積み重ねています。各事業所の実態がみえるので、責任者も気にかけてくれるようになりました。全体に結果をみせることで、従業員のヘルスリテラシーの向上につながったと思います。

──労働組合との連携

後藤さん ▶

 従業員の健康意識は徐々に向上していますが、グループ全体へのアプローチはまだまだ行き届いていません。業務用のパソコンやメールアドレスを持っていない従業員への情報伝達は課題になっています。そこで重要になるのが、労働組合です。労働組合ならば、職種に関係なく全国各地の従業員と対話することができます。


ニチレイ労働組合中央執行委員
金谷 雄太 さん

金谷さん ▶

 健康経営への取り組みは、労働組合の活動方針の1つの柱になっています。ニチレイグループで働く全ての人が健康でイキイキと働ける職場を作りたいという思いは、労働組合だけでなく、会社と健保組合も同じです。労働組合は「いつでも誰でもどこからでも」をキーワードに、組合員との対話を重視して活動しています。

後藤さん ▶

 健康推進センターと労働組合は、月に2回健康経営について情報交換をしています。労働組合は従業員の意見を吸い上げて伝えてくれる一方で、健保組合が開催する健康づくりのイベントなどの情報発信に協力してくれます。

奈良さん ▶

 労働組合が間に入ることで、これまでにない意見や要望を聞くことができました。例えば、がん検診のさらなる充実は、多くの従業員が望んでいたことでもありました。

金谷さん ▶

 定期的に情報交換をすることで、組合員からの健康づくりに関する要望を反映する場ができました。自分の意見が反映されると、組合員の満足度も上がります。

 健康診断の回数を減らした際にはネガティブな意見も出ましたが、1回の健診内容や事後フォローを充実させるという健康推進センターの狙いを労働組合が説明することで、全国の組合員から理解を得ることができました。

──体験型イベントの展開

園田さん ▶

 16年に、事業主と健保組合が共同で「ニチレイ健康塾」という体験型イベントを始めました。18年度は高血圧をテーマに保健師の解説、管理栄養士による栄養指導、運動指導士によるウオーキング指導のプログラムで実施しました。また、特別セミナーとして、睡眠や姿勢改善など、健康に興味を持ってもらうためのイベントも展開しています。労働組合の皆さんにも参加してもらいました。

奈良さん ▶

 ランチョン(昼食)セミナーでは、自社製のカロリーや塩分をコントロールしたお弁当が配られます。まさに三位一体のイベントですね。

園田さん ▶

 健康塾の開催は今後、地方の事業所に、さらに拡大展開していきたいと思います。

後藤さん ▶

 健康塾の名の下に、さまざまなジャンルのセミナーを開催することができるようになりました。社員の健康意識のさらなる向上につながると期待しています。

ニチレイ健康保険組合常務理事兼ニチレイ人事総務部ニチレイ健康推進センター所長 
後藤 浩章 さん

「企業である以上、生産性の向上を目指す必要があります。楽しく働いていたらいつの間にか生産性が上がり、業績も上がったというような好循環を生み出すことが理想です。医療費の低下や保険料率の引き下げは、後から付いてくると考えます。まずは、従業員に健康でイキイキと働いてほしいと思います。」

ニチレイ人事総務部ニチレイ健康推進センター保健師 関 範子 さん
「従業員全員のヘルスリテラシーの向上が目標です。健康診断を受けやすい職場環境づくりや、上長や従業員が周りの仲間の不調に気づいて声をかけるなど、自助努力で健康を維持できると良いと思います。健康推進センターが暇になる方が、会社にとっては良いことですね。」

ニチレイ人事総務部ニチレイ健康推進センター係長 園田 愛望 さん
「従業員の健康意識の高まりが少しずつ感じられます。健康推進センターの業務には、大変やりがいを感じています。現状は、健康経営の取り組みや健康意識にはまだまだばらつきがあります。全国の事業所に健康経営が浸透するよう貢献したいと思います。」

ニチレイ健康保険組合事務長 奈良 豊子 さん
「健診結果を受けて、自発的に医療機関を受診して服薬を始めた矢先に、脳血管疾患で入院した従業員がいます。受診勧奨が実りつつありますが、このような事例を1つでも減らすため、さらに取り組みを改善したいと思います。健診結果が悪ければ病院に行く、たばこを吸わない、メタボリックシンドロームが体に悪いことなどの意識を醸成することが究極の目標です。」

ニチレイ労働組合中央執行委員 金谷 雄太 さん
「ニチレイで働く全ての人が働く喜びを感じられる職場をつくりたいと思います。そのためには、組合員に健康でイキイキと働き続けてもらわなければなりません。これからも『いつでも誰でもどこからでも』をキーワードに組合員との対話を続けていきます。」

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