健康コラム

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

都築電気株式会社

働き方改革と同時に健康経営を実践しコロナ禍にも対応

情報ネットワークソリューションサービスや電子デバイスをはじめ幅広いICTサービスを提供する都築電気は、働き方改革と健康増進施策を車の両輪に取り組みを展開してきた。育児や介護、長時間の通勤といった社員の事情を考慮して進めてきた働き方改革は、今回のコロナ禍において「全社員原則テレワーク」の実現を可能とした。在宅勤務で希薄になりがちなコミュニケーションの活性化には、オリジナルキャラクターのスタンプを活用するなど遊び心も忘れない。2018年から3年連続して「健康経営優良法人(ホワイト500)」に選ばれた同社のこれまでの取り組みについて、都築電気執行役員・総務人事統括部長の轟正昭さん、経営企画室の奥野洋子さん、人事部第三人事課の荒井崇さんに話を聞いた。

【都築電気株式会社】
設 立:1932年5月
本 社:東京都港区新橋6-19-15
代表取締役社長:江森 勲
従業員数:1,510人

──「ワイガヤ」を開催し社員の声を聞き出す


都築電気執行役員・
総務人事統括部長
轟 正昭 さん

轟さん ▶

 2016年4月、年に1回全社員が集まる社員総会で、当時の管理本部長が「当社も健康経営を実践していく」と表明したのが発端です。16年は、健康経営といっても何をすれば良いのかという暗中模索の中で、まずはワーキンググループを立ち上げ、社内外から情報収集に努めました。

 17年4月には、新たに就任した江森勲社長が同じく社員総会で健康経営を強く打ち出すとともに、健康経営統括室を設立して自ら室長に就任し、牽引していくことを宣言しました。この背景として、若手の離職、人員構成のアンバランスによる中間層の不足と激務化、中高年層における介護・健康リスクといったものがありました。今こそ、それぞれの立場に合わせた「健康」や「働き方」のために投資していくことが重要ということで、「働き方改革」と「健康増進施策」の両輪で施策を展開していくことにしたのです。


都築電気経営企画室
奥野 洋子 さん

奥野さん ▶

 人事制度として16年4月にテレワーク勤務規程を設けましたが、それと同時に健康経営をスタートさせています。当時、当社は長時間労働者が多く、「仕事は会社でするのが当たり前」、「夜遅くまで仕事して、遅くから飲み会」、「肝臓壊して一人前」といった雰囲気でした。

 「健康経営の実践」といっても具体的に何をするかは決まっていなかったので、まずは社員の声を聞くという草の根活動からスタートしました。さまざまな部署から社員に集まってもらい、ワイワイガヤガヤしながら意見を聞く「ワイガヤ」を開催し、健康と働き方に関する課題を共有した上で、それに対する改善策を現場から出してもらったのです。また、社員やその家族から案を募ってゆるキャラコンテストを行い、健康経営推進の公式キャラクター「ヅッキー」をつくりました。

 17年の健康経営統括室設置後は、「早帰りデーの徹底」、「サテライトオフィスの設置」、「健康課題の講義(eラーニング)」、「健康経営推進調査の開始」など、1カ月に1本のペースで施策を矢継ぎ早に展開していきました。といっても、じつは「早帰りデー」など昔から人事部で推進してきた施策も多く、それらを「徹底」することにしたのです。サテライトオフィスも、社内の空いているスペースを有効活用し、総務部が主たる推進者として取り組みました。

 ハード面では物理的なインフラを整えること、ソフト面では社員の腹落ちを意識して、いつでもどこでも働きやすい環境をつくることを現場から提案し、それをトップがきちんと認めてくれて、両方が融合しながら進めてきたというのが当社の健康経営になります。

──社員の家族も大切な家族 年に3回社長メッセージ

轟さん ▶

 私は、企業経営もスポーツの世界も一緒だと思います。いざ試合というときに、メンバーがケガをしていたり病気になっていたりしては試合になりません。企業経営も同じであり、社員が健康で、ケガも病気もない状態でないと、業績も上がらない。そういうことが改めて分かったことが、ここまで4年間取り組んできた結果かなと思います。

 また、当社は創業88年の古い会社ですが、創業者がよく言っていたのは、「社員は家族である」という言葉で、ファミリー的な企業文化の延長に、健康経営もあるのではと思います。


都築電気人事部第三人事課
荒井 崇 さん

荒井さん ▶

 私は人事で健康診断を担当しているので、健康経営の事務局という立場で関わっています。「社員は家族である」ということは、「社員の家族も家族」ということです。現在、健診の案内とともに、年に3回、社長からのメッセージをご家族宛てに発信していますが、そこに、「ご家族も必ず健康診断を受けてください」とメッセージを添えています。

 家族の方から受診場所について相談を受けることもありますが、その際は私自身も全力で、「家族のために」ご希望を叶えられるよう心掛けています。同時に、産業医に就業判定をしてもらったあと受診が必要な社員に対しては、ご家族の心配される姿も想像しつつ、確実に受診につなげられるようアドバイスしています。社員からは、「本当に良いきっかけになった。どうしようかと悩んでいたが、背中を押してもらった」という声が多く聞かれます。

轟さん ▶

 社員の中にも、「健診を受けたくない」という人が何人かいます。「健康に自信がないから受けたくない」、「怖い」といった意見もありますが、人事部が後押ししていることもあって、ここ2年間は定期健診の受診率は100%です。健保組合からの補助と会社の補助を合わせると、40歳以上はほぼ無料で人間ドックが受けられるので、ほとんどの社員は人間ドックを自分で予約して受けています。

荒井さん ▶

 当社が加入する電設工業健保組合には、コラボヘルスの一環で、年に3回ほど食生活のセミナーと歯科検診、メンタルヘルスのセミナーを行ってもらっています。また、特定保健指導のトライアルとして、タブレット端末を送ってもらい、遠隔実施をしています。

奥野さん ▶

 当社の人員構成では45歳以上にボリュームゾーンがあるため、メタボリックシンドローム該当者は年々増えています。一方で、17年頃から人事部が積極的に関わり始めたため、特定保健指導実施者数は大きく増え、実施率も3%から22%に伸びました。ここはやはり、人事部と健保組合の連携の成果なのではと思っています。家族宛てのメッセージの発信では、当社独自のアンケート調査の結果データから、睡眠リスクと飲酒リスクが高いことが判明したため、「わが社の状況はこうなっています」といった生のデータを紹介しながら情報を発信するようにしています。

──テレワーク推進の経験がコロナ対応にも生きる

轟さん ▶

 テレワークを推進したきっかけとして、10年から女性の総合職を多く採用し始めたことがあります。しばらくして人事部から、女性の離職防止の観点から何か手を打たなければいけないという声が上がり、テレワークを模索しました。具体的に規程を整備して開始したのは16年度からになりますが、たまたま今回のコロナ禍で「テレワークをしなければ」となったときも、4年前からの経験があるので比較的スムーズに実施できました。

 テレワークは、育児や介護といった事情がある人のほか、首都圏では通勤にかなり時間をとられる人もいるので通勤負担軽減にもなります。このため、テレワーク実施率はここ数年で倍々に伸びていました。コロナウイルスがまん延した20年3月末頃からは、「全社員原則テレワーク」となり、出社率も1割以下になりました。「テレワークなんてできっこない」と思っていた仕事が、「案外できるな」ということを再認識し、7月段階でも各部門で「3割出社」を原則にして、交替で出社するような対応にしています。

奥野さん ▶

 在宅勤務ではどうしても気持ちが塞いでしまうのではないかという心配があるため、常設している「こころと健康の相談窓口」の存在を社員にメッセージ配信し、家庭向けには手紙でお知らせしました。

 また、コミュニケーションの活性化として会社の業務端末によるオンライン懇親会の実施を許可したり、社内チャットで使える関西版スタンプをリリースしたりといった、ちょっと笑える施策を展開しています。これは、大阪支店長からの発案なんです。


都築電気健康経営推進公式キャラクターの「ヅッキー」。社内チャットツールで活用できるよう、
スタンプのバリエーションも豊富。社員から関西版ご当地スタンプのアイデアも。

荒井さん ▶

 関西版スタンプは非常に好評で、使用頻度が高いですね。

奥野さん ▶

 現在、腰痛や肩こり、眼精疲労、頭痛、ストレスに対しての解決策をリリースしようと考えています。会社で使っている椅子や机は作業負荷を考えてそれなりに高価なものですが、自宅ではなかなか揃えられません。それに起因する身体愁訴への解決策を考えていきたいと思います。

──社員の意識向上とともに持続的な健康投資が重要

奥野さん ▶

 業績との関係でいえば、テレワークを導入したのが16年、健康経営宣言をしたのが17年ですが、そこからずっと売上高・営業利益ともに右肩上がりで、20年6月には東証一部上場を果たしました。17年当時に立てた総実労働時間5%削減や健診受診率100%という目標はすでに達成しており、総実労働時間は7.2%削減しています。テレワークの実施率も、もとは4%だったのですが、19年に50%超、20年には100%になりました。

 このような定量的な数字を出していくことは確かに大事ですが、一方で社員の意識に働きかけて、持続的に健康へ投資していくことが大事なのではないかと思っています。健康経営の進め方においても、18年までは健康経営統括室による本社主導の取り組みでしたが、現場から「本社しか取り組んでいない」という声があったため、19年に「健康経営委員会」という体制に変更しました。小委員会方式にして、支店や事業所ごとにオリジナルな健康経営の取り組みを推進することで、非常に多様な施策が出てきたのです。

荒井さん ▶

 名古屋支店では昨年、ボッチャという障害者スポーツの大会に参加することを施策として打ち出しました。社員同士のコミュニケーションにも寄与するし、運動もできる、そして障害者へのボランティア的側面もある非常に良い施策で、私たちも考えつきませんでした。小委員会で活動していただく中で、そのような成果が出てきたと思っています。

轟さん ▶

 社員の意識もだいぶ向上してきて、健康経営は本社の一部が取り組むのではなく、自分たちがやるものなのだという意識が出てきました。始めた当初は「健康経営を進めて業績が上がるのか」と疑問の声もありましたが、世の中的にも徐々に浸透し、当社も3年連続ホワイト500を取得できました。社内外に認知されてきたかなと自覚しています。

 今後は継続することが一番大事なので、そのためにどうすればよいかをわれわれからも情報発信していきたい。まずは、テレワーク勤務者のセルフケアに重点的に取り組んでいく必要があると思っています。

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