健康コラム

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

第一三共株式会社

従業員の心と体の健康に最大限配慮して生産性の向上を目指す

革新的医薬品を継続的に創出し、多様な医療ニーズに応える医薬品を提供することを使命としている第一三共株式会社は、「従業員の心と体の健康に最大限配慮する」という人材マネジメント理念に基づき、健康保険組合、労働組合と連携して健康の保持・増進に取り組んでおり、6年連続で「健康経営優良法人」(大規模法人部門、ホワイト500)の認定を受けている。従業員1人ひとりの生産性向上という経営課題の解決に向け、プレゼンティーイズム改善、エンゲージメント向上、アブセンティーイズム改善を最終目標に掲げている。同社の取り組みについて、第一三共株式会社人事部労政グループ長の吉田浩之さん、同グループ主査の秋本大介さん、同グループ課長代理の小林久美子さん、第一三共ビジネスアソシエ株式会社人事推進部健康推進グループ主査の歌代久高さん、第一三共グループ健康保険組合常務理事の楢本雅史さん、同健保組合事務長の白石久雄さんに話を聞いた。

【第一三共株式会社】
設 立:2005年9月28日
本 社:東京都中央区日本橋本町三丁目5番1号
代表取締役会長 兼 CEO:眞鍋 淳
従業員数:17,435人(第一三共グループ)(2023年3月31日時点)
2017年9月に「健康・安全宣言」

──「健康・労働安全戦略マップ」に基づいて施策を推進


第一三共株式会社
人事部労政グループ主査
秋本 大介 さん

秋本さん ▶

 当社グループは、人を最重要資産と位置付け、多様な人材がさまざまな課題を乗り越えながら、いきいきと活躍できる環境を整備するために、必要な投資を積極的に行っています。「従業員の心と体の健康に最大限配慮する」という人材マネジメント理念に基づき、健保組合、労働組合と連携して健康の保持・増進に取り組んでいます。

 「第一三共グループの企業理念およびビジョンの実現に向けて会社と従業員が共に成長を遂げるためには、従業員の心と体の健康・安全が不可欠である」旨の健康宣言・安全宣言を出し、ウェブサイトにも掲載しています。

 環境の保全と従業員の健康・安全の確保を目的に、2019年4月にEHS(環境・健康・安全)方針を定めるとともに、EHS経営最高責任者をヘッドとするEHS経営委員会を設置し、EHS一体となった施策を推進しています。

 EHS経営委員会では、当社グループのEHSポリシーに基づき、企業活動全般において環境の保全と健康と安全の確保に努めています。持続可能な社会づくりに貢献するEHSマネジメントを推進しています。


第一三共グループ健康保険組合
事務長 白石 久雄 さん

白石さん ▶

 EHS経営委員会には健保組合もオブザーバーとして参画しており、健康経営の方針、施策の進捗状況等の情報を共有していただいています。

秋本さん ▶

 健康関連産業であるのが当社グループの特徴です。それに加え、社会に価値を提供していくためには、従業員の心と体の健康・安全が不可欠です。健康診断の結果、各種検査項目の有所見率が高いこと、改善するための行動を起こす意識が低い従業員が少なからずいることが課題でした。

 従業員が健康意識を向上させ、行動変容することを目標に評価指標を設定し、施策を講じています。解決すべき経営課題は、従業員1人ひとりの生産性向上であり、そのための最終目標として、プレゼンティーイズム改善、エンゲージメント向上、アブセンティーイズム改善を掲げています。

 この最終目標の達成に向けて一次予防、二次予防、三次予防のそれぞれでどういった対応ができるのかを検討し、体系立てて図式化した「健康・労働安全戦略マップ」に基づき、安全衛生施策を推進しています。

 健康増進については、生活習慣病、がん、メンタルヘルス、運動機能の向上を重点領域に設定しています。この4つの柱に沿って、2021年度に健康保持・増進に係る新たな評価指標・目標値を設定しました。

 評価指標のトップには、「アブセンティーイズム(30日以上の私傷病休業者数)」、「プレゼンティーイズム」を挙げています。一般平均(健保連データ)よりも有所見者率が高かった「脂質、血圧、肝機能」も評価指標としました。

 運動機能の向上については、労災の中でも比較的多い「転倒・転落労災の発生率」に着目しました。メンタルヘルス対策として「高ストレス者率」、健康リテラシーの向上のために「健康イベントの参加率」、検査を受けた後の行動変容を促すために「特定保健指導実施率」、がん対策として「喫煙率」を評価指標に入れています。

──法定健診+がん検診の「DSけんしん」を開始


第一三共ビジネスアソシエ株式会社
人事推進部健康推進グループ主査
歌代 久高 さん

歌代さん ▶

 会社が実施してきた定期健康診断と健保組合が実施してきた人間ドックを統合し、2023年度から法定健診項目とがん検診項目を包含した独自の総合的な検査体制である「DSけんしん」を開始しました。全従業員が年に1回、人間ドックレベルの健診を受診できる環境を整備しています。

 特に、がん対策が必要な35歳以上の従業員については、5大がん(肺、胃、大腸、子宮、乳房)の検査を全員が受診することを推奨しており、早期発見・早期治療につなげていきます。その他の疾病についても健診結果をもとに速やかに事後措置を講じ、重症化を予防することによって、生産性の向上や離職の防止、将来的には医療費の削減にまでつなげたいと考えています。

 従業員が健康の保持・増進に取り組むためには、自分の健康状態を把握することが極めて重要です。年1回、従業員が時期や健診機関を自分で選択して「DSけんしん」を受診し、健診結果を確認することにより、健康意識を高めることができます。

 従来、会社と健保組合がそれぞれで持っていた健康管理基盤を一本化し、共通の健診データを活用したコラボヘルスを充実させていきます。

白石さん ▶

 健診結果に基づく特定保健指導や健保組合の基準で設定した重症化予防の対象者に受診勧奨を行い、対象者やアプローチ方法を事業主と共有することで、参加率・受診率を向上させたいと考えています。

 被扶養者に対しても積極的に「DSけんしん」の受診を勧奨し、特定健診・特定保健指導の目標達成につなげていきます。がんの要精密検査の対象者への受診勧奨については、外部の活用も視野に入れながら、今まで以上に確実に実施していきます。


第一三共グループ健康保険組合
常務理事 楢本 雅史 さん

楢本さん ▶

 健保組合としては、「DSけんしん」の受診勧奨とその後のフォローを事業主とコラボしながら進めていくことが重要であると考えています。特にがんの要精密検査が必要な方、重症化が疑われる方については、医療機関への受診勧奨を強化していきます。

小林さん ▶

 2021年4月に経営トップが「2030年度に国内グループ会社の喫煙率ゼロを達成する」という禁煙宣言を社内外に発表しました。従業員が禁煙しやすい環境づくりとして、全事業所の敷地内全面禁煙、WHOの世界禁煙デーにあわせた啓発、オンライン禁煙外来の受診費用の補助等を行っています。

白石さん ▶

 健保組合としては、会社が実施しているオンライン禁煙外来について、機関紙でも積極的に紹介するなど啓発に力を入れています。

小林さん ▶

 社内イントラネットに健康に関する情報を一元化したサイトを設け、健康経営の進捗状況、会社の制度、各種健康情報、健康イベントについて掲載しています。

──オリジナル体操の「One DS 体操」を制作


第一三共株式会社
人事部労政グループ課長代理
小林 久美子 さん

小林さん ▶

 従業員の健康リテラシーの向上と運動習慣の推進を目的に、社内で健康イベントを定期的に開催しています。最近では、運動機能の向上策として、3分程度のオリジナル体操「One DS 体操」を制作し、従業員に実践を呼び掛けています。国内外の120チーム、1000人が参加したPR動画を作成しており、近くウェブサイトで公表予定です。動画の撮影を通じ、コミュニケーションの向上、職場風土の醸成につながったと感じています。PR動画を活用し、従業員への浸透・定着を図っていきます。

 また、コロナでテレワークが増加し、人と直接会う機会が減少する中、上長と人事担当者がエンゲージメントとメンタルヘルスに関する課題を把握し、適宜・適切に支援を行うための手段として、「Wevox」というエンゲージメント調査を活用しています。32問の簡単なアンケートによって従業員の職場環境、職務のやりがい、人間関係等に関する状況が把握できます。その結果をもとに、対象者への声掛けや職場環境の改善を行い、働きやすい職場の整備とメンタルヘルスの向上に取り組んでいます。

 さらに、健康面の不調を来した従業員が安心して療養し、スムーズに復職できるように職場復帰支援制度を設けています。身体・精神疾患によって6カ月を超える療養休暇を取得する従業員を対象としています。

白石さん ▶

 健保組合では、職場ごとに健康管理に関する情報や知識などを被保険者に周知し、保健事業の有効かつ円滑な実施を図るために、理事長が被保険者の中から健康管理委員を委嘱しています。

 また、常務理事が委員長を務める健康管理事業推進委員会を年に2回開催しており、医療費の動向、データヘルス計画の進捗状況等を報告するとともに、保健事業の計画を立案し、理事会に提案して承認後、組合会に報告しています。会社とのコラボレーション施策を検討する機会にもなっています。

小林さん ▶

 健康課題を踏まえて新しく始めた施策をご紹介します。

 自分の日常行動をより具体的に把握して健康行動につなげられるように、スマートウォッチの「Fitbit」も活用しています。昨年度はトライアルとして、希望する従業員に「Fitbit」を貸与し、歩数、睡眠の状況、心拍数等を見える化しました。参加者間で歩数を競い合うイベントも開催しました。

 また、女性特有の健康課題に向き合い、ヘルスリテラシーの向上や行動変容を促すため、多様な従業員が周囲の理解を得て働きやすい職場環境を整備することを目指しています。具体的には、①産婦人科専門医の解説動画を社内サイトへ掲載、②動画を活用したオンラインセミナーの実施、③産婦人科医や小児科医に悩みを相談できる窓口の設置――を行っています。


第一三共株式会社
人事部労政グループ長
吉田 浩之 さん

白石さん ▶

 健保組合の独自イベントとして、毎年秋に「Iki Ikiキャンペーン」としてウオーキング大会を開催しています。従業員とその家族に1カ月間歩いてもらい、一定の距離に達した方にはポイントを付与しています。また、会社の健康増進啓発事業を実施した事業所に対する補助も実施しています。

吉田さん ▶

 グローバル全体の従業員の健康・安全があってはじめて安定的な事業運営ができます。6年連続で健康経営優良法人のホワイト500の認定をいただいていますが、認定を目的化することなく、中身のある健康増進政策に引き続き取り組んでいきます。

楢本さん ▶

 健保組合としては、今後も被扶養者も含めた加入者への意識改革にしっかりと取り組んでいきます。従業員とその家族の両方を対象に施策を展開することがとても重要であると考えています。

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