健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
名鉄バス株式会社
健康に対する意識を高めて安全な輸送を実現
従業員約1,600人の9割以上を乗務員が占める名鉄バス株式会社は、「安全への道は、健康とともに」をスローガンに健康経営に取り組んでおり、2020年から6年連続で「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」の認定を受けている。乗務員の健康管理という観点から、名古屋鉄道健保組合が運営する名鉄病院を活用し、脳ドックの受診、SAS(睡眠時無呼吸症候群)の検査と治療者の管理などを充実させている。また、「体重測定習慣化キャンペーン」の実施により、定期的な体重測定者の増加、肥満者の割合減少といった成果を出している。同社の健康経営の取り組みについて、取締役人事部長の名倉緒さん、人事部人事課長の江上敏弘さん、同課係長の鈴木智喜さん、同課事務リーダーの金澤賢一さん、同課保健師の尾田洋子さん、同保健師の栗木朋美さん、名古屋鉄道健保組合事務長の二出川裕也さん、同主任の佐藤久彰さんに聞いた。
【名鉄バス株式会社】
設立:2004年5月11日
本社:名古屋市中村区名駅4-26-25
代表取締役社長:瀧 修一
従業員数:1,630人(2025年9月現在)
──健保立の名鉄病院を活用した取り組みを推進

名鉄バス株式会社
人事部人事課長
江上 敏弘 さん
江上さん ▶
2019年に当時の社長が「これからは従業員の健康支援に力を入れる」という方針を示したことを契機に、健康経営の取り組みを始めました。従業員の健康に対する意識を高め、安全な輸送につなげることが目的であり、2020年から6年連続で健康経営優良法人の認定を受けています。
健康経営を進めることで、お客様の安全・安心につながり、健康起因による事故を防止することができます。健康な状態で長く働き続けられる職場とすることで、人材確保にもつなげていきたいと思います。
栗木さん ▶
安全を最優先とした乗務員の健康管理という土台があり、脳ドックの受診、SAS(睡眠時無呼吸症候群)の検査と治療者の管理など、一般的な企業では必要とされない項目も健康管理の対象としています。
脳ドックは、名鉄病院において、人間ドックと一緒に実施しています。受診の際には、会社の補助に加え、健保組合にも補助していただいています。
SASの精密検査も名鉄病院で実施していただいています。CPAPの治療を開始した場合には、治療費の自己負担分を会社が負担しています。治療者は2018年に80人でしたが、現在は、250人に増加しています。

名古屋鉄道健保組合
事務長 二出川 裕也 さん
脳ドックの結果やSASの治療のコントロールが不良であった場合など、健康問題によって乗務員として働くことができなくなることが近年の課題です。乗務員として長く活躍するためには、健康であることが不可欠であり、「安全への道は健康とともに」をスローガンとして健康経営を進めています。
二出川さん ▶
名鉄病院では、人間ドックについて、標準コースに加え、脳や消化器がん・総合がんの検査がセットになったコースがあります。名鉄バスには、標準コースに脳ドックの検査を追加したコースを積極的に活用していただいています。2024年度の受診者は177人で前年比109%です。
──健康増進アプリを健保組合として導入

名鉄バス株式会社
人事部人事課
保健師 栗木 朋美 さん
栗木さん ▶
SASの原因の1つである肥満対策に力を入れています。バス乗務員は、勤務時間が不規則で睡眠を優先するために食事を取ってすぐ睡眠に入ってしまうという生活サイクルになる方が多く、太りやすい生活習慣になりがちです。また、自身の体重に無頓着で、健康診断を受けて、初めて体重が激増しているのを把握する方もいました。
そこで、まずは自分の体重に意識を向けてもらうために、「健康管理ブース」として、業務用の体重計と血圧計を全営業所に設置しました。そして、2023年度からは、定期的に体重を測ることを目的にインセンティブを付与する「体重測定習慣化キャンペーン」を実施しています。
健保組合と連携した取り組みとしては、脳ドックやSASの精密検査に加え、2024年度に、健康増進アプリ「Pep Up」を導入していただきました。会社独自での導入を検討したのですが、費用面で断念した経緯があり、そのことを健保組合と情報共有したところ、健保組合として「Pep Up」の導入を決定していただきました。
「Pep Up」を使用して保健師から従業員に健康情報を発信していますし、「体重測定習慣化キャンペーン」では、「Pep Up」での体重登録を促しています。
二出川さん ▶
健保組合として健康アプリの導入を数年前から検討していたのですが、なかなか実現できませんでした。適用事業所からご相談をいただき、いいタイミングだから健保組合として導入しよう、と決断できました。事業所からの相談が健保組合の施策につながったということです。

名鉄バス株式会社
取締役人事部長
名倉 緒 さん
「Pep Up」の登録率は、健保組合全体で35.9%ですが、名鉄バスは60.0%であり、事業所の中で最も高い登録率です。従業員の日ごろの健康づくりやイベント利用、業務上の情報発信用のツールとして活用するなど、登録率の向上に努めていただいています。
健保組合として、事業所をサポートできるようなことがないかを常に考えて、施策を紹介するなど、協力して取り組みを進めています。
名倉さん ▶
これまでは、会社のメッセージを各営業所に伝え、そこから各乗務員に伝えていたため、届くまでにタイムラグがありました。今は、「Pep Up」で即時に伝えられるというメリットもあります。健保組合に導入していただいたことで、費用面でも助かっています。
──キャンペーンの実施で体重測定者が大きく増加

名鉄バス株式会社
人事部人事課
保健師 尾田 洋子 さん
尾田さん ▶
健康経営の成果をみると、定期的な体重測定者は、2022年度に53.5%でしたが、現在は70%まで伸びています。肥満者の割合は、2020年度に38.4%でしたが、現在は36.3%に減少しています。
名倉さん ▶
「体重測定習慣化キャンペーン」は3年目に入っており、乗務員に浸透しつつあります。生活習慣の改善に向け、今後も取り組みを続けていくことが重要です。
尾田さん ▶
健康状態が乗務の可否に直結するため、健康診断後の受診勧奨に力を入れており、治療放置者は1.8%と他の企業よりもかなり少なくなっています。

名鉄バス株式会社
人事部人事課係長
鈴木 智喜 さん
金澤さん ▶
乗務員は健康でなければ、運転できないことが分かっているため、勧奨されれば、病院を受診する習慣があります。そこに保健師の指導がプラスされて、良い結果が出ているのではないでしょうか。
鈴木さん ▶
働きやすい職場環境づくりにも取り組んでいます。従来は、乗務員は制服と帽子を着用することになっていましたが、2024年から、ポロシャツでもいい、帽子をかぶらなくてもいい、時間帯によってはサングラスをかけてもいいと柔軟化しました。今年から、夏服のズボンも自由化しています。働きやすい環境をつくることで、離職を防止するとともに、採用強化にもつなげていきたいと考えています。

名鉄バス株式会社
人事部人事課 事務リーダー
金澤 賢一 さん
金澤さん ▶
私は4月まで乗務員をしていました。働きやすい環境になってきていることを実感しています。今後もそういった取り組みを進めたいと思います。
──取り組みの効果を検証し新しい施策の導入も検討
名倉さん ▶
今後、高齢化に伴って採用する乗務員の年齢も上がっていくでしょう。そうなると、健康経営の取り組みの効果が一層出てくるのではないかと思っています。現在の取り組みの効果を検証しつつ、新しい施策も取り入れながら、従業員がさらに健康で働きやすくなる職場をつくっていきたいですね。
健保組合は、会社よりも規模が大きい。他の事業所と一緒に取り組むことで、会社単体では難しい施策を実現することもできるでしょう。そういったスケールメリットも享受させていただきながら、健康づくりに励んでいきたいと考えています。
尾田さん ▶
「Pep Up」を最大限活用して、保健師から効果的に情報提供をしたいと考えています。乗務員は、身体活動量が多くないため、健保組合主催のウォーキングラリーを積極的に周知するなど、身体活動量を上げるような取り組みをバックアップしたいと考えています。来年度からは、女性特有のがん検診に対しても補助をする予定です。
二出川さん ▶
当健保組合は加齢による病気が発症しやすい50歳台の加入者が多く、そういったボリュームゾーンに対する健康づくりが課題です。医療費抑制という結果はなかなかすぐには出にくいのですが、重症化していない方、健常な方の健康づくりが日常になるように、各事業所と協議しています。
補助事業についても、各事業所の健康経営の取り組みに役立つような支援をしていきたいです。健保組合の担当者が各事業所の担当者の話を伺いながら、現在の補助メニュー以外にどういったもののニーズが高いのかなど材料を集めています。
ボリュームゾーンがピークを迎える2026年度に向けて補助メニューの具体化を進めていこうと考えています。いただいたアイデアの種を実現できるように取り組みたいと思います。

名古屋鉄道健保組合
主任 佐藤 久彰 さん
佐藤さん ▶
インフルエンザ予防接種について、健保組合の補助事業に追加の補助をしていただいたり、「Pep Up」の運用について、健保組合のインセンティブに事業所独自の追加のインセンティブをつけていただいたりするなど、かなり積極的に取り組みをしていただいています。名鉄バスの積極性を他の事業所にも広げていきたいと考えています。
二出川さん ▶
健保立病院を持っているという特徴を活かした取り組みも進めていきます。加入者が名鉄病院で使った医療費は、名鉄病院の収入として回収できるような仕組みになっています。各事業所や病院の健診センターと相談しながら、今後の施策の方向性を決めていきたいと考えています。