健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
― 社員の健康づくりを会社がサポート 職場に根付く“健康風土” ―
広島ガス株式会社
企業の発展には、「社員の元気と活力が重要である」という方針のもと、中期経営計画に「働きやすい環境づくりの推進」を掲げ、健康推進活動に取り組む広島ガス株式会社。
2015年3月に経済産業省と東京証券取引所は、社員の健康を経営的な視点で捉え、戦略的に健康づくりに取り組む企業を「健康経営銘柄」として22社を選定し発表しましたが、その健康経営銘柄に広島ガス株式会社も選定されています。
今回は、人事部門のスタッフおよび保健師が、健保組合のスタッフも兼務している広島ガス株式会社と広島ガス電鉄健康保険組合ガス支部の方がたに、健康づくりの具体的な取り組み内容や今後の課題、健康経営銘柄に選ばれた経緯などについて話を伺いました。
※「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
【広島ガス電鉄健康保険組合ガス支部概要】
加入事業所数:14事業所 (2015年3月末現在)
加入者数:3695名 (被扶養者2154名を含む)
――社員の健康づくりに取り組まれるようになった背景をお聞かせください。
広島ガス株式会社 経営統括本部
執行役員人事部長 久保 賢司さん
広島ガス電鉄健康保険組合ガス支部
常務理事兼任
私たちは、企業が継続的に発展していくためには、社員の元気と活力が重要であると考えています。また、社員が心身ともに健康であるためには、職場環境の整備が重要であることも認識しています。そこで、会社の中期経営計画に「働きやすい環境づくりの推進」を掲げ、人事部門が中心となって、健康推進活動に取り組んでいます。
社員の健康維持・増進の基本は、社員1人ひとりが健康を意識して行動することにあり、会社の役割は、その社員の健康づくりをサポートすることにあると考えています。
――具体的に健康づくり(保健事業)はどのようなことを行っていますか。
広島ガス株式会社 経営統括本部
人事部 業務改革職 課長 橋本 公憲さん
広島ガス電鉄健康保険組合ガス支部
事務長兼任
社員の健康づくりの第一歩は健康診断であり、社員の健診受診率は100%を達成しています。以前から有所見者に対して保健師による面談を実施していましたが、数年前から、健診結果を配布後、その健診結果をもとに、全社員に対して保健師が個別に健康指導を行うようにしています。
がん予防対策にも力を入れており、全社員を対象とした肝炎ウイルス検査や50歳以上の男性を対象としたPSA(前立腺がん)検査、40歳以上を対象としたピロリ菌検査および希望者を対象とした便潜血 (大腸がん)検査、女性を対象とした子宮がん・乳がん検診などを会社と健保組合で分担して実施しています。社員は、年齢が高くなるほど保健事業への期待が大きくなり、とくにがん検診のニーズは高いと感じています。
また、各事業所の更衣室等に体重計と血圧計を設置し、社員はいつでも計測することができるようにしたり、社員食堂では管理栄養士と保健師が意見交換を行いながら健康面に配慮したメニューを考えるなど、生活習慣病予防に役立てています。
さらにメンタルヘルス対策として、毎年セルフケアの意識付けを中心としたメンタルヘルス研修会を開催し、全社員が受講しています。また管理職に対しては、ラインケアに関する教育を行い、メンタルヘルス予防に心がけています。
2015年12月から義務化されます「ストレスチェック」につきましては、2013年より実施しており、その結果、高ストレス者として判定された社員に対しては、保健師が個別にフォローしています。メンタル不調者には、保健師や職場が定期的にフォローし、スムーズに職場復帰できる体制を構築しています。このように、産業医、保健師、人事部および職場が一体となって、メンタルヘルス対策に取り組んでいます。
また、長時間労働による疾病を予防するために、月45時間以上の時間外労働が発生した場合には、上司がその状況や今後の業務の見込みなどを「実態調査票」に記入し、産業医に報告しチェックしています。月80時間以上に達した場合は、実態調査票の記入に加えて、産業医による面談も実施しています。
社員が心身の健康に不安を感じている状態では業務に集中できないため、社員の健康をサポートできるよう、地道な活動を行っています。
――社員の健康に対する意識を高めるための工夫、PR方法などをお聞かせください。
社員の健康意識を高めるうえで最も効果的だと思われるのは、経営トップの健康に対する考え方を社員に対して直接伝えることだと思います。当社では、毎年10月の「全国労働衛生週間」の初日に、合同朝会を開催し、社長が全社員に向けて、健康メッセージを発信しています。本社地区以外の社員に対しては、テレビ会議システムを活用したり、社内イントラネットの掲示板に掲載するなど、全社員への周知を図っています。社長が直接メッセージを発信することは、会社が健康を重要課題として捉えていると社員に伝わる効果があると思います。健康への意識の共有が、社員1人ひとりの健康増進の第一歩ではないでしょうか。
それから、当社では保健師が2人常駐しており、きめ細かく健康指導・健康相談を行うとともに、定期的に社内イントラネットを通じて健康情報を発信しています。また、保健師はメンタルヘルス対策の1つとしての社内相談窓口にもなっており、社員が気軽に相談できる雰囲気づくりにも気を付けています。
――経済産業省と東京証券取引所が共同実施している「健康経営銘柄」へ選定された経緯などをお聞かせください。
広島ガス株式会社 経営統括本部
人事部 人事企画グループマネージャー
山口 佳明さん
「健康経営銘柄」に選定されたことには正直驚いています。経緯としましては、自分たちの健康づくりの取り組みの位置づけを客観的に確認してみたいというのが発端で、経済産業省からの健康に関するアンケートに回答しました。(このアンケートへの回答が健康経営銘柄選定される前提条件でした)
選定された理由の1つは、経営トップである社長が、社員の健康問題を会社の重要課題として認識し、直接社員に発信していることにあると思います。また、現場での健康づくりの推進は、産業医・保健師が中心となっていますが、保健師による健康診断後の全員面談や、人事異動時の異動対象者との面談など、社員の健康を支援するために、地道に活動していることが評価されたのではないでしょうか。私たちとしては、社員の健康を守るために、特別な活動を行っているわけではなく、当たり前のことを当たり前に取り組んでいるだけだと思っています。
――これから取り組んでいこうとしていること、課題などはありますか。
今後の課題としては、当社では、健康診断で有所見者に該当する社員の数が多く、有所見率が63.4%と高くなっています。また、喫煙率は、年々減少傾向ではあるものの、まだ全国平均よりもやや高い状況です。そこで、社員1人ひとりが健康を意識した行動につなげるように、社内環境をさらに整備していきたいと思います。
また、メンタルヘルス対策では、社内のコミュニケーションが円滑になるよう工夫して、さらなる疾病予防に努めていきたいと考えています。
健保組合としては、被保険者の健康診断受診率が100%に対し、被扶養者の特定健診受診率は低いのが現状です。そのため、各家庭に受診券を郵送するなど対策は講じていますが、今後の課題の1つと認識しています。
――「あしたの健保プロジェクト」および健保連や国に対するメッセージをお願いします。
当健保組合は、後期高齢者支援金・前期高齢者納付金等、高齢者への拠出金負担が非常に重く圧し掛かっており、保険料収入に対する拠出金負担の割合が、60%(2014年度)に達しています。健保組合平均の43.7%と比較しても非常に高いのがわかると思います。そのため、本来積極的に推進していくべき保健事業が、最小限度でしか実施できない状況です。
さらに、拠出金負担を賄うために、2012年以降、毎年保険料率をあげて対応せざるを得ない状況が続いており、2014年度には、ついに保険料率を10%まで引き上げました。現在は事業主の理解のもと、なんとか健保組合を運営していますが、この状況が続きますと健保組合を解散し協会けんぽへ移行することも視野に入れて検討せざるを得ません。きめ細かな保健事業を実施するためにも、健保組合を維持していきたいという思いですが、拠出金負担については、健保組合や企業の努力だけではどうにもできない部分もあります。
そのため健保連には、現行の高齢者医療制度の負担構造の改革の必要性について、国に対して強く働きかけていただきたい。また、国には、医療保険制度全体の改革をお願いしたいと思います。
広島ガス株式会社 経営統括本部 執行役員人事部長 久保 賢司さん
広島ガス電鉄健康保険組合ガス支部 常務理事兼任
「社長が直接メッセージを発信することは、会社が健康を重要課題として捉えていると社員に伝わる効果があると思います。健康への意識の共有が、健康増進の第一歩です。」
広島ガス株式会社 経営統括本部 人事部
業務改革職 課長 橋本 公憲さん
広島ガス電鉄健康保険組合ガス支部 事務長兼任
「社員の健康づくりをサポートすることが会社の役割。そのために、健康診断やがん検診などをはじめとした保健事業を地道に行っています。」
広島ガス株式会社 経営統括本部 人事部
人事企画グループマネージャー 山口 佳明さん
「産業医、保健師、人事部および職場が一体となって、メンタルヘルス対策など社員の健康づくりに取り組んでいます。」