健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
ロート製薬株式会社
社員の提案から生まれるボトムアップ型の健康づくり
社員が一丸となってより良い商品・サービスを開発し、お客様一人ひとりの、健康で活き活きと生活できる明日の世界を創ることを目指すロート製薬株式会社。ロート製薬では、世界中に健康と美を提供するために、「まずは社員が健康で美しくあってこそ良い商品・サービスが提供できること」が経営の根幹であると考え、従業員の健康づくりに取り組んでいます。また、2014年には最高健康責任者のチーフヘルスオフィサー(CHO)を設置し、副社長が就任。従業員の健康増進・維持にむけて、さらに体制を強化しました。
今回は、早期から経営における従業員の健康を重視し、「健康企業・健康社員化プロジェクト」を実践しているロート製薬株式会社とロート製薬が加入している大阪薬業健康保険組合の方がたにお話を伺いました。
【大阪薬業健康保険組合の概要】
加入事業所数:788事業所(2015年11月末現在)
加入者数:18万4066人(2015年11月末現在)※被扶養者8万9417人を含む
──社員の健康づくりに注力するようになったきっかけや背景などをお聞かせください。
ロート製薬株式会社東京支社
広報・CSV推進部 部長 河崎 保徳さん
ロート製薬 ▼
ロート製薬では、経営の根幹に、「まずは社員が健康で美しくあってこそ良い商品・サービスが提供できる」という強い理念を持っています。また、企業理念の1つに、「励ましあい、協力し合える、社内外の仲間との信頼の絆をなにより大切にしています」と掲げているように、社内は家族的な雰囲気があります。
しかし1990年後半、会社の業績が急成長し、商品数や社員数が増えていく一方で、忙しさに追われ、ストレスを抱えて疲弊する社員が出てきました。その姿に危機感を感じた社員が、“このままではよくない”と、立ち上がりました。
──具体的にはどういった取り組みを行なっていますか。
ロート製薬株式会社 人事総務部
人事1グループマネージャー 野田 功さん
ロート製薬 ▼
ロート製薬では昔から体力測定を実施していましたが、全社員強制参加ではありませんでした。そこで、まず2002年に、全社員に体力測定を実施しました。体力測定は、1年に1度、筋力・持久力・俊敏性・平衡性・柔軟性の5つの体力要素を含む7種目を測定しており、現在も継続して実施しています。
さらに、自分の健康は自分で守るという、社員一人ひとりが自立した健康づくりに取り組めるように、2004年には社員の健康増進を専任に行なう「オールウェル計画推進室」を設立し、同時に同推進室による社員のための福利厚生施設「スマートキャンプ」(大阪市生野区本社)の運営を開始しました。スマートキャンプでは、家庭でも簡単に取り入れられるレシピ付きの薬膳料理の提供や、リラクゼーションを目的とした整体が受けられます。2006年からは東京支社でも運営を開始しました。
社員の自立した健康管理を目指すため、会社がすべて負担するのではなく、必ず自己負担をとるようにしています。会社としては、こうしたサービスを提供し、健康づくりをサポートすることによって、社員が自分なりのストレス発散法やリラクゼーション方法を見つけてくれることを願っています。
──2011年から実施している「健康増進100日プロジェクト」とはどういったプロジェクトでしょうか。また新たに行なった事業などはありますか。
ロート製薬 ▼
「健康増進100日プロジェクト」とは、会長や社長も含めた全社員が参加して100日間、禁煙や食生活の改善、運動などに取り組み、改善度をポイント化するものです。全社員が体力不足や体重過多、喫煙といった課題ごとにチームを組み、個人目標とチーム目標を掲げて取り組みます。6~9人のチーム制にすることで、仲間同士で励ましあい、開催中の100日間は社員の間で健康情報が話題にあがるなど、健康意識の向上にむけた風土づくりや意識改革につながっているように感じます。
このプロジェクトをきっかけに、疾患率が最も低いといわれるBMI値20-22の社員が開始前の36%から42%へ上昇し、健康増進のための取り組みをその後も継続していく意向を持つ前向きな社員が8割を占めるなど、効果が出てきています。
さらに2014年には、「チーフヘルスオフィサー(CHO):最高健康責任者」を設置しました。CHOには、海外事業などを担当する副社長のジュネジャ・レカ・ラジュ氏が就任し、社内外の健康づくりの取り組みを一層強化する体制を整えました。また同年、社員の有志20人ほどによる「健康企業・健康社員化プロジェクトチーム」を発足。同プロジェクトの最高顧問はCHOが担っています。
同年、プロジェクトチームの声かけで、大阪市の大阪城公園をサンタクロースの衣装で走るチャリティイベント「おおさかグレートサンタラン」に社員約120名が参加。CHOのジュネジャ副社長も社員とともに汗を流しました。また、楽しみながら毎日続けられるものをということで職場にバランスボールを導入したり、ダノンジャパン株式会社が実施する腸内環境の検査やダノンヨーグルトの社内での無償提供などの活動も行ないました。
こうした健康づくりの実施、体制強化により、2015年の体力測定で、社員全体の体力年齢がマイナス1歳という結果となり、これまでの取り組みが効果として数字に表れてきたのではないかと感じています。
──経済産業省と東京証券取引所による「平成26年度健康経営銘柄」に選定されています。
ロート製薬 ▼
健康経営銘柄では、これまで実施してきた健康づくりの取り組み内容をアンケートに記載しました。選定に際しては、「経営理念・方針」「組織体制」「制度・施策実行」「評価・改善」の4つの側面で評価され、当社はこの4つの側面で偏差値50を上回り、なかでも「経営理念・方針」が高く評価されたようです。また、他社に先駆けてCHOを設置し、「健康」を上位概念に置いた経営方針を明確にし、自社の社員だけでなく、社会全体の健康を支える企業に進化させる可能性も理由の1つとして伺っています。
──厚生労働省による「データヘルス計画」によって、健保組合と母体企業や加入事業所が協働する健康づくり“コラボヘルス”が、今後企業における健康経営の推進の肝となるといわれています。
大阪薬業健康保険組合
専務理事 置田 公作さん
大阪薬業健保組合 ▼
私ども大阪薬業健康保険組合は、加入者が1人という小さな会社から3000人近い規模の大きな会社まで800近くの事業所が加入する総合型の健保組合です。そのため、各事業所と協力体制を築くことは容易ではありません。しかし、2015年度から開始したデータヘルスによって、加入者の健診データや医療情報が記載されたレセプトデータなどを活用した分析を行い、データ的根拠に基づいた効果的な保健事業を展開しています。当健保組合の2015年度のデータヘルス計画は次の通りです。
【特定健診・特定保健指導の受診率・指導率の向上】
分析結果に基づいた効果的な保健事業を推進するためには、特定健診・特定保健指導の受診率・指導率を向上させる必要があります。とくに、家族の受診率が低いことから、機関誌やホームページだけでなく、健診受診の案内を年に2回各家庭に送付。パート先などで受診された家族の方が健診結果を提出してくれた場合には、ノベルティを配布するなどの工夫をしています。
【糖尿病の重症化予防】
健診の結果、ヘモグロビンA1cや空腹時血糖など糖尿病に関連する検査項目の数値が一定値を超えているにもかかわらず、医療機関を受診していない方を対象に、保健指導または早期受診を促し、重症化予防に努めています。
【事業所へのデータ分析結果の提供】
当健保組合全体の数値と当該事業所の分析結果を提供し、その特性や傾向からみた健康課題などを提示し、事業所における健康づくりの参考材料としていただきたいと考えています。各事業所から委員を選出して健康管理事業推進委員会を設置していますので、そのなかで結果報告書の検証なども行っていきます。
【頻回・重複受診の是正】
レセプトデータから、頻回・重複受診の実態を把握し、薬の副作用を含め適切な受診に向けた通知・指導を行っています。
なかでも、健診結果をもとに、加入者の健康状態を把握し、重症化予防や疾病予防策を考えることが効果的な保健事業につながるため、特定健診・特定保健指導の受診率・指導率の向上が重要だと認識しています。そのため、加入者の健康意識の向上も同時に行なっていく必要があると思います。また、コラボヘルスにおいては、単一の健保組合と比較した場合の“事業所との距離感”をどう縮めていくかが課題です。
ロート製薬 ▼
企業における健康経営では、数値的なエビデンスが不足しています。そこで、健保組合から健保組合全体と当社の医療費や疾病率などの推移を示したデータを提供いただけると健康づくりの1つの効果検証に使えると思います。どういう分析データを提供していただけるかなど、適宜相談して改善していけると大変助かります。
──「あしたの健保プロジェクト」に対するメッセージや、医療保険制度、健康経営の実施などに関する国への要望などはありますか。
大阪薬業健保組合 ▼
新たな高齢者医療制度がスタートした2008年度~2014年度の7年間の、当健保組合における高齢者医療への拠出金は、保険料収入の47.2%を占めています。本来使われるべき保険給付および保健事業ではなく、国へ納める拠出金が5割近くを占め、それにより財政難に陥り、高額な医療費が発生した場合などに備えている積立金を取り崩したり、毎年のように保険料率を上げて対応せざるを得ない状況に強い憤りを感じています。多くの健保組合が同様の状況にあるということは、少子高齢化が進むなか、現役世代の保険料負担に頼る制度に限界がきているのではないでしょうか。
高齢社会においては、現役世代が高齢者へ一定の負担をすることは当然です。しかし、無制限に負担する今の仕組みは見直すべきだと思います。社会保障に充てることを目的とした消費税率10%への引き上げの際には、ぜひその財源を前期高齢者の医療費に充てるなど、負担構造を早急に見直すべきです。
また、後期高齢者への支援金は、保険者の特定健診・特定保健指導の実施率の高低により、加算・減算される制度になっており、今後はジェネリック医薬品の使用率などの指標も追加して、加算・減算の対象にすることが検討されています。もともと保健事業は健保組合がやるべき重要な柱ですから、保健事業に罰則的な要素や成果主義的な要素を付け加える制度も見直すべきだと思います。
これからも健保組合は効果的な保健事業の実施や医療費適正化にむけて積極的に活動していきますので、ぜひとも医療保険制度における高齢者医療の負担構造の改革を早急に実現してほしいと思います。
ロート製薬株式会社東京支社 広報・CSV推進部 部長 河崎 保徳さん
「健康づくりは、あくまで社員が主役、会社はサポート役です。健康意識の高い社員がリーダーとなって、トップダウンではなくボトムアップでじわじわと健康風土が根付いています。PR方法としては、身近な人の改善事例がもっとも効果的です」
ロート製薬株式会社 人事総務部 人事1グループマネージャー 野田 功さん
「さらなる社員の健康保持・増進をめざして有志による健康プロジェクトを立ち上げました。人事総務部は体制の強化などサポート役にまわることで、社員への押し付けがないと感じています」
大阪薬業健康保険組合 専務理事 置田 公作さん
「健保組合だけの努力では、加入者の健康意識の改革がなかなか進みません。そこで、事業主と協力して、意識付けを進めていきたいと思います」