健康コラム
健康課題への取り組み・対策
左から、大塚ホールディングス株式会社人事部課長(兼)大塚製薬健康保険組合・大橋敬子さん、大塚製薬健康保険組合常務理事・川染秀樹さん、大塚製薬株式会社人事部課長(人事部健康管理室室長)・武田めぐみさん、大塚製薬株式会社ニュートラシューティカルズ事業部女性の健康推進プロジェクトリーダー・西山和枝さん
大塚ホールディングス株式会社&
大塚製薬株式会社&大塚製薬健康保険組合
女性の健康課題に関するリテラシーを向上し適切な対処に結びつける
大塚製薬健康保険組合は、大塚ホールディングス株式会社や大塚製薬株式会社をはじめ、大塚グループ40社が加入している。約2万人の被保険者のうち、女性の比率は約30%となり、年々その比率は上昇している。大塚グループにおける女性の健康課題への対応やコラボヘルスの特徴について、大塚ホールディングス株式会社人事部課長(兼)大塚製薬健康保険組合・大橋敬子さん、大塚製薬株式会社人事部課長・人事部健康管理室室長・武田めぐみさん、大塚製薬株式会社ニュートラシューティカルズ事業部女性の健康推進プロジェクトリーダー・西山和枝さん、大塚製薬健康保険組合常務理事・川染秀樹さんに話を聞いた。
健保に加入する各社の知見を利用したコラボヘルス
――大塚グループや大塚製薬健保組合の特徴についてお聞かせください。
大塚製薬健康保険組合
常務理事 川染 秀樹 さん
川染さん ▶
当健保組合の加入者は、男性が1万4297人、女性が5551人で、女性の比率が30%となっています(2024年1月末現在)。年々女性の比率は上がってきています。大塚グループ全体でみると、本社部門で女性が多く、各社の生産部門の工場では男性が多くなっています。年齢分布をみると、25〜60歳までの間で偏りはありません。
武田さん ▶
大塚製薬株式会社では、社員が仕事と育児・介護を両立することができるよう、休暇制度を充実させています。
2024年1月には、新たに「セルフ休暇」制度を導入しました。生理休暇をはじめ、更年期症状の治療や、性適合手術、ホルモン治療を実施する際など、年間5日間を上限に休暇を取得することができる制度です。
当社には、通常は消滅してしまう年度繰り越し分の有給休暇を移行し、毎年10日分、最大50日分まで積み立てることができる「積立有休制度」があります。この有給休暇は、育児休職や介護休職、傷病休暇等、まとめて休みが必要なときに使用することができ、これを「セルフ休暇」に充てることもできます。
さらに、小学校1年生までの子どもを持つ社員を対象とした「ファミリーサポートスマイル制度」もあります。これは、1カ月に1回出社することで、あとは在宅で働くことのできる制度です。
――企業と健保組合とのコラボヘルスにおけるユニークな点はどこですか。
川染さん ▶
当健保組合の取り組みにおけるユニークな点として、大塚製薬株式会社、大鵬薬品工業株式会社、アース製薬株式会社、株式会社大塚製薬工場など、大塚グループ各社の得意分野や知見を利用したコラボヘルスを行っていることが挙げられます。
例えば、加入者にメールで配信する「健康コラム」を各社の担当者に書いてもらう際には、がん領域を主要事業領域とする大鵬薬品はがんに関する内容、アース製薬は口腔ケアに関する内容、大塚製薬や大塚製薬工場は栄養や熱中症対策に関する内容など、各社の事業や得意分野に関連した分野の記事を作成してもらっています。
また、社員の健康を推進するため、健保組合と医療職、各社健康管理担当者が連携して、社員やその家族を対象にした「健康セミナー」を行っています。このセミナーにおいても、各社の事業における知見を活かした内容を企画しています。
加えて、大塚製薬株式会社ニュートラシューティカルズ事業部女性の健康推進プロジェクトと健保組合で連携し、事業に結び付ける形での女性の健康の推進に向けた取り組みを行っています。
大橋さん ▶
グループ内の各社の得意分野を利用したコラボヘルスの一環として、「お口ケア30日チャレンジプログラム」も行っています。日常の口腔ケアを正しく効果的に行う力を身に付けるため、健保組合とアース製薬が共同で開発したプログラムです。抽選で、被保険者200人に歯の磨き残しの検査キットとマウスウォッシュ等「口腔ケアキット」を配布しています。プログラム参加者が積極的に歯科検診を受診するようになるなど、意識変容につながればよいと考えています。
このプログラムも3年間実施したため、2024年度は直接、歯科検診受診にアプローチする取り組みを行っていきたいと考えています。
併せて、楽しみながら健康増進をしていただくことを目的に、2023年度より「カフェテリアプラン」を導入しました。健康セミナーへの参加でポイントが付き、そのポイントを健康に関する商品やサービスに交換できます。大塚製薬健保組合では、被扶養者の健診受診率の向上に課題があり、健診の必要性を理解していただく必要があります。被扶養者の健診受診に対してもポイントを付与し、受診率の向上を目指しています。
大塚製薬株式会社
人事部課長
(人事部健康管理室室長)
武田 めぐみ さん
武田さん ▶
大塚製薬では、2023年に、コラボヘルスとして禁煙に力を入れて取り組みました。もともと大塚製薬健保組合では、禁煙補助薬を使用した短期間の禁煙体験プログラム「ノンスモ禁煙サポートプログラム」を実施していましたが、そのプログラムを達成した人を対象に、企業側が本格的な1年間程度の禁煙プログラムに誘導するという取り組みを行いました。
相談窓口を設置し女性の健康調査を実施
――女性特有の健康課題への支援として取り組んでいることをお聞かせください。
大塚ホールディングス株式会社
人事部課長(兼)
大塚製薬健康保険組合
大橋 敬子 さん
大橋さん ▶
大塚製薬健保組合では、ライフステージごとに心身にさまざまな変化が生じる女性をサポートする体制として、2022年から婦人科産業医と契約し、「女性の健康相談窓口」を設置しました。女性本人からの相談はもちろん、男性社員からも、部下や同僚、家族への対応に関する相談・問い合わせに活用していただいています。
相談窓口に寄せられた相談内容については、本人には産業医が動画で回答するとともに、ホームページにも要約した回答を公開し、さまざまな方に活用していただけるようにしています。一方で、いまだに相談窓口を知らない方もいることから、一層の周知に努めていきたいと考えています。
また、大塚グループでは、30歳以上の方は人間ドックを受診することができ、その際に各種がん検診も受診することができます。その上で、2022年度からは、希望する30歳未満の全女性被保険者に対し、「子宮頸がんウイルスチェック」を本人の費用負担なしで実施しています。
「子宮頸がんウイルスチェック」は、委託機関から申込者の自宅にキットが郵送され、自宅でチェックを行うことができます。昨年度の申込者数は100人を超え、想定よりも多くの方がチェックを行いました。半数以上が子宮頸がん検診を受けたことがないことからも、チェックを契機に、検診受診につなげてほしいと考えています。
さらに、2024年度からは、「子宮頸がんウイルスチェック」の対象者を被扶養者まで拡大するとともに、25歳以上の被保険者も、生活習慣病健診と併せて、女性特有のがんの検診を無料で受診できるようになります。
武田さん ▶
大塚製薬では、コラボヘルスの一環として、「女性の健康セミナー」やe-learningを実施しています。e-learningでは、社内の健康活動に関する説明や、社内の健康等に関する調査の結果の共有などを行っています。
「女性の健康セミナー」は、「女性の健康週間」(3月1日〜8日)に合わせて、2023年3月にオンラインと対面のハイブリッドで開催しました。これに先立ち同年1月には「女性の健康に関する調査」を実施したため、婦人科専門医からその結果について説明していただきました。
大塚製薬で実施した「女性の健康に関する調査」は、回答が任意にもかかわらず、75%もの女性社員に回答していただきました。この要因として、企業と健保組合の双方から、「なぜこの調査を行う必要があるのか」を丁寧に説明して協力を呼び掛け、理解を得られたことが挙げられると考えています。さらに、この調査を実施したことで、「会社が女性の健康について真剣に考えている」というメッセージが社員に伝わり、「健康に関する悩みも会社に相談しやすくなった」との声もありました。
調査の結果をみると、更年期症状については、45歳以上など一定の年齢層だけでなく、どの年齢層にも一定数は同症状を自覚する方がいることが分かりました。このため、症状の改善にアプローチする際には、特定の年齢に限定するのではなく、全体にアプローチする必要があることが分かりました。
更年期症状が中等度以上の方の中で、高度の労働機能障害に該当する方が一定数いることも分かりました。受診などの行動につなげることや、個別に対処することで改善に向かい、労働生産性の向上にもつながります。会社全体の理解向上と、該当する方の受診等を後押しする取り組みを行っていきたいと思います。
大塚製薬株式会社
ニュートラシューティカルズ
事業部女性の健康推進
プロジェクトリーダー
西山 和枝 さん
西山さん ▶
大塚製薬株式会社ニュートラシューティカルズ事業部女性の健康推進プロジェクトという部署では、女性の健康をサポートする食品を取り扱っています。もともとは製品のマーケティング活動を行っていましたが、女性の中でも自身の女性ホルモンの働き、ライフステージごとの身体の変化等に気づいている人が少ないということが分かり、2015年頃から、マーケティング活動に加え、女性の健康セミナーの開催等、啓発活動を行っています。
「知って、気づいて、相談して、対処する」ことを上手く実践できる方ほど、より健康になることができると考えていますので、ヘルスリテラシーを向上させることは重要です。セミナーなどで症状を「知って」もらい、自分がどのような症状に悩まされているのか「気づき」、健保組合が設置している相談窓口に「相談する」、そして受診等の行動に移してもらう(「対処する」)必要があります。
これらの取り組みについて、他の企業に出向き、出張セミナー等も行っています。2019年に経済産業省が健康経営の認定要件に女性の健康の増進に関する取り組みを盛り込んだことから、この出張セミナーへの問い合わせも増えました。
このほか、社内における調査だけでなく、対外的な「ヘルスリテラシー調査」や、「働く女性の健康調査」等も実施しています。プレスリリース等も行うことで、「会社内の労働生産性や企業業績向上には女性の健康に関する取り組みを行うことが必須である」ということを各企業、社会全体にも感じていただけるよう、取り組みを進めています。
先進的な取り組みを共有し組合全体のレベルを向上
――女性の健康支援の取り組みをはじめ、現状の課題を踏まえた今後の展望をお聞かせください。
大橋さん ▶
健保組合は、大塚グループ全体をみていくことになりますが、さまざまな活動を引き続き行う中で、健康施策を各社で活用していただき、女性の健康リテラシーの向上、適切な受診、働きやすい職場環境づくりにつなげてほしいと考えています。とくに、女性の健康については、大塚製薬の「女性の健康推進プロジェクト」と引き続き連携を取りながら新しい施策も考えていきたいと思います。
川染さん ▶
健保組合の加入事業所の中でも、大塚製薬の取り組みが最も進んでいます。その取り組みを、その他の事業所にも伝えて、その企業に合ったアプローチを行っていただき、健保組合全体のレベル上昇を目指していきたいと考えています。
武田さん ▶
健康宣言の中でも、健康であるだけでなく、いきいきと活躍できる環境で、社員が力を発揮できるようにすることが掲げられているため、会社が環境を整えることと並行して、社員のヘルスリテラシーも向上させ、自身の健康課題を自ら対処していけるよう、引き続き取り組みを進めていきたいと考えています。
西山さん ▶
健康課題等に関する最新の知見を社内外に情報提供することで、社内外のヘルスリテラシー向上だけでなく、皆が「正しい情報をキャッチして、対処する」ということができる環境をつくりたいと考えています。目標としては、「女性の健康を考える日常の醸成」を掲げています。誰もが何も言わずに、女性の健康を当たり前に考える日常がやってくるよう、環境をつくっていきたいと思います。