HOME > けんぽれんの刊行物 > 健保ニュース > 健保ニュース 2026年4月中旬号

健保ニュース

健保ニュース 2026年4月中旬号

松本理事が8年度診療報酬改定を総括
入院料の新設 急性期は集約へ
外来実績データ 医療の質向上の試金石

中央社会保険医療協議会の支払側委員を務める健保連の松本真人理事は、本誌のインタビューに応じ、6月から施行される令和8年度診療報酬改定について所感を語った。新設される急性期病院一般入院基本料では、救急搬送件数と全身麻酔手術件数に一定以上の実績が求められることになるが、こうした病院機能に着目する評価が導入されることで、「急性期病院の集約化につながる」との認識を示した。急性期に特化するのか、ケアミックスで対応するのか地域で自院の担う役割を考える契機になるとした。外来医療では、生活習慣病管理料に診療実績データに基づく評価が実装されることに注目し、医療の質の向上に向けた「試金石となる」と期待した。


─令和8年度診療報酬改定率について

物価高による医療機関の経営悪化と医療従事者の賃上げに対応する必要性から、本体部分が3.09%引き上げられ、薬価や材料価格の引き下げと合わせた全体でもプラスとなった。

近年にない大幅なプラス改定だが、昨年末の大臣折衝に基づき、施設類型ごとの費用構造や経営実態を反映したメリハリの利いた財源配分となり、一律の底上げにはならなかった。

改定率が8年度、9年度の2段階で設定されたことも大きな特徴だ。医療費を支払う立場としては、一気に3.09%引き上がるのに比べて、ある程度は健保組合の保険料収入の伸びに連動することになり、一定の妥当性があると考えるが、健保組合の財政影響については慎重に見極める必要がある。

また、大臣折衝の合意事項として、現役世代の保険料負担の抑制の観点から、後発医薬品への置き換えの進展を踏まえた処方・調剤に係る評価の適正化や、長期処方・リフィル処方の取り組みを強化することが明記された。健保組合の厳しい財政状況を政府が理解した上で判断したものと受け止めている。


─賃上げ・物価対応について

前回6年度改定でも賃上げは大きなテーマとなり、看護職やリハビリ職などを対象とする「ベースアップ評価料」を創設した。しかし、40歳未満の勤務医や事務職員などは、この評価料の対象とせず、初・再診料や入院料などの基本料を引き上げて対応することになった。その際に支払側は、基本料に賃上げの財源を溶け込ませた場合、必ずしも実効性が担保できないと考え、個々の医療機関ごとに賃上げを評価し、結果を検証できるようにすることが望ましいと指摘した。

その後の実態として、物価上昇の影響が大きく、基本料では十分な賃上げに対応できなかった可能性がある。8年度改定では、若手の勤務医や事務職員なども「ベースアップ評価料」の対象に含めることから、賃上げが実際に行われたのか結果の検証が可能となる。

評価料の取得に必要な手続きも簡素化されるので、医療機関の経営者には、確実な賃上げのために適切な人事労務マネジメントが求められる。

物価対応は、政府が決定した財源の枠組みを踏まえ、どういった配分が適切なのかを考えながら中医協の議論に臨んだ。

今後2年間のインフレを前提として「物価対応料」を新設したことがベストなのかは色々な見方があるかもしれないが、施設類型ごとの費用構造に応じて財源を傾斜配分する点では、理解しやすい仕組みだと受け止めている。

今回の賃上げと物価対応のいずれも、2年間に限った措置であることを中医協で指摘した。経済・物価の動向や医療機関のコスト構造の変化などを注視し、より良い対応を慎重に考える必要がある。


─入院医療の見直しについて

地域で病院が発揮している機能に着目した急性期医療の新たな評価体系として、病院単位の救急搬送件数や全身麻酔手術件数の実績を要件とする「急性期病院一般入院基本料」が創設された。それぞれの病院が地域の医療ニーズを踏まえ、どういった役割を果たしていくのかは、新たな地域医療構想と密接に関係するが、今回の入院料の見直しは、急性期病院の集約化につながる重要な要素だと認識している。

中医協では、急性期病棟と包括期病棟を併設するケアミックスのあり方も議論になり、病院単位の機能分化と地域連携の観点から、急性期病院一般入院基本料を算定する場合、地域包括医療病棟の併設を認めないことになった。この入院基本料には「急性期病院A」と「急性期病院B」の2区分があり、施設基準が特に厳しく点数も高い急性期病院Aは、地域包括ケア病棟の併設も認められない。そうした点からも急性期病院Aは、地域の拠点的な急性期機能を評価する位置づけであることがわかる。

生産年齢人口の減少と高齢者人口の増加により、今後は高度な手術や重篤な救急搬送の医療ニーズが低下する一方で、転倒骨折や誤嚥性肺炎などの高齢者に特徴的な手術・処置や救急搬送の医療ニーズはさらに高まる。こうしたことを念頭に、各病院が地域で担うべき役割を自ら考えなくてはならないという視点が、今回の改定でより鮮明になったのではないか。


─外来医療の見直し、また今後のあり方について重視する点

かかりつけ医機能の発揮を患者ごとに評価する「地域包括診療加算」「地域包括診療料」について、外来データを継続して厚生労働省に提出している場合の評価を新設したことや、かかりつけ医機能の体制を評価する「機能強化加算」に外来データの提出を努力義務としたことは一定の前進だ。

生活習慣病の計画的な治療を評価する「生活習慣病管理料」については、継続的に受診する患者の割合などを指標とする段階的な加算が実装された。データに基づく外来医療の実績評価として、医療の質向上に向けた試金石になると考えている。

一方で、かかりつけ医機能報告制度を踏まえた抜本的かつ体系的な評価の見直しは、残念ながら課題として残った。次回の改定では、報告制度の要素を診療報酬の中に取り入れていくことが自然の流れだ。

医薬品の処方をどう評価するのかということも論点となった。これまでは医薬分業を推進するために処方箋料が高く設定されてきたが、既に医薬分業は達成した。後発医薬品の使用についても、加算で政策誘導する時代は終わった。そのため、今回は処方箋料の一般名処方加算を引き下げることになった。

後発医薬品の関係では、入院医療や薬局調剤にも共通する見直しとして、後発医薬品の使用割合に着目した加算を廃止することも重要なポイントになる。

一方で、新薬や長期収載品の不安定な供給が続いていることを踏まえ、後発医薬品の使用だけでなく、医薬品を安定供給するための取り組みを強化する観点から、「地域支援・医薬品供給対応体制加算」「地域支援・外来医薬品供給対応体制加算」を新設した。この加算は、地域フォーミュラリの要素が施設基準に明記されたことも注目に値する。


─医療DXの評価について

マイナ保険証の利用率を主な指標とする医療DX推進体制整備加算を廃止し、これに替わって、電子処方箋の導入や一定の要件を満たす電子カルテの使用、電子カルテ情報共有サービスへの対応などを要件とする新たな評価として「電子的診療情報連携体制整備加算」を創設する。マイナ保険証による受診が原則となった状況を踏まえ、より本格的な医療DXの活用に向けて支払側が中医協で主張した方向性に沿う形になった。

医療DX推進にあたっては、国民、患者、保険者がメリットを享受できることが重要であり、今回の見直しによる影響をしっかりと注視していきたい。


─健保組合に向けたメッセージについて

診療報酬は健保組合の皆様にとってわかりにくい部分があり、健保連の診療報酬改定を担当するグループではイントラネットを通じて説明動画の提供や、改定のポイントをまとめた資料を作成して情報提供をしている。

加入者には、まずは自らが受けている医療サービスの中身に関心を持っていただきたい。

その一歩として、医療機関を受診して支払いの際に受け取る診療明細書を見て、疑問に思ったことをわからないままにするのではなく、発行元の医療機関に確認し、自らが受けた医療サービスに対する費用負担が納得のいくものなのかを考えるきっかけとしてほしい。

健保組合の皆様には経常支出の半分以上を占める法定給付費の中身に関心を持っていただき、注意を促す点も含めて加入者に伝えることが大事だと思っている。

診療明細書の発行は、無料で発行する体制を整えている場合、再診料に1点が加算されることから、決して無料で受け取っているわけではない。

適正化の観点から見直しが必要な点について考えるきっかけとなるような、加入者に向けた情報発信力の強化を健保組合には期待している。


─支払側代表として今後、どのようなスタンスで改定論議に臨むべきか

中医協の議論の中で、考え方の視点などで異なる部分はあると感じることはあるが、支払側、診療側、公益委員も患者にとってより良い医療の提供を目指しているところに違いはない。

私自身、支払側委員として8年度改定を含めてこれまで3回の改定を経験した。

これまで一貫した姿勢として、保険診療のあるべき姿を意識しながら、保険適用してよいのか、それとも保険適用になじまないのではないかという点を意識して改定議論に臨んできた。

今後も限られた財源の中での公平性・効率性・費用の妥当性といった観点から、意見を発信することが重要であると考えている。

また、今回の改定では、健保組合における保険給付に関するものとして、健診受診後の初・再診料などの算定方法について、▽健診に引き続き関連する疾患で同日に保険診療を受けた場合、初診料だけでなく、再診料も算定できない▽健診後に、健診に関連する疾患で改めて受診した場合に初診料の算定を不可とし、再診料を算定する──といった点が明確化されたことは、一定の整理ができたと評価している。

このように実際の健保業務に関わることも意識しながら議論に臨んでいる。

6年度改定の際は、介護報酬との同時改定というタイミングで医療と介護の連携に着目した見直しが行われた。これまでも、医科・歯科・調剤の連携、病診連携といった取り組みを改定のたびに評価してきたが、まだまだ不十分だ。

今回の改定でも、医療・介護の連携、医師と薬剤師との連携、歯科医療機関との連携などについて新たな評価や見直しが行われたことから、こうした評価項目を活用してしっかりと連携を図り、患者が安心して必要なサービスを受けることのできる質の高い医療の提供につなげてほしい。

けんぽれんの刊行物
KENPOREN Publication

2026年
2025年
2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年