健康コラム
健康課題への取り組み・対策



女性の健康総合センター・センター長 小宮ひろみさん
−女性の健康総合センター−
「女性の健康」に特化した研究を推進し司令塔機能を担う組織へ
女性の活躍促進や子育て支援の観点から、2023年6月閣議決定の「骨太の方針」や「女性版骨太の方針」、同年12月閣議決定の「こども未来戦略」で、国立成育医療研究センターに「女性の健康」に関するナショナルセンター機能を持たせ、女性の健康や疾患に特化した研究、女性の健康に関わる最新のエビデンスの収集・情報提供を行う仕組みを構築することとされたことを踏まえ、2024年10月1日に「女性の健康総合センター」が設立された。このため、開所から2年目となる「女性の健康総合センター」の担う役割や現状の取り組み、今後の展望等について、センター長の小宮ひろみさんに伺った。
女性の健康・疾患特化の研究・開発を推進
――2024年10月1日に設立された「女性の健康総合センター」について、設立趣旨や、具体的にどのような役割を担うのか、センターとしての目的等について伺います。

女性の健康総合センター
センター長 小宮 ひろみ さん
「女性の健康総合センター」は、「女性の健康」に関する司令塔機能を担い、「女性の健康」に関する研究、臨床、イノベーションを総合的かつ包括的に推進する、日本で初めての女性の健康課題に特化した組織です。国立成育医療研究センターに、「女性の健康」に関するナショナルセンター機能を持たせ、女性の健康・疾患に特化した研究の推進や、最新のエビデンスの収集・情報提供を行うことを目的に設立されました。
とくに、女性と男性の身体的な違いによる疾患のかかりやすさや症状の違いを明らかにする「性差医療」、ホルモンバランスの変化に着目し、思春期・性成熟期・更年期・老年期などライフステージごとに女性の健康を支える「女性医療」に取り組んでいます。
また、女性が生涯を通じて健やかに暮らし、社会で活躍し続けるためには何が必要なのか、どのように支援していけばいいのかを考え、①女性の健康に関するデータセンターの構築②女性のライフコースと性差を踏まえた基礎研究・臨床研究の積極的な推進③情報収集・発信、人材育成、政策提言④女性の体とこころのケア⑤女性に特化した診療体制の拡充――に取り組んでいます。
①については、散在している女性の健康に関するデータを収集・管理し、利活用ができるようデータ情報を整理して可視化することや、データクリーニング、統合IDの付与、データ提供窓口などの機能を一元的に担っていきます。
②については、女性の健康課題は極めて多岐にわたるため、医学的な視点だけではなく、社会学などの多様なアプローチから研究を推進します。また、研究成果の社会実装化を推進するため、「オープンイノベーションセンター」を設立し、民間企業等との協働も行います。
③については、「女性の健康総合センター」で創出されたエビデンスを発信するだけでなく、そのエビデンスを生かして、標準化した教育プログラムや教育コンテンツの開発を行い、人材育成にも力を入れています。
④については、妊娠の希望の有無にかかわらず、将来のライフプランを考えて、日々の生活や健康と向き合うことで将来の自分の健康につなげていく「プレコンセプションケア」について、全国に浸透させていくため、「プレコンセプションケアセンター」を中心に、プレコンセプションケア提供者の教育・育成などの取り組みや、相談・健診・カウンセリングなども行っています。
併せて、「妊娠と薬情報センター」では、妊娠中あるいは妊娠を希望する女性に対し、妊娠中の薬の安全性に関する相談外来を行っています。全国47都道府県の拠点病院に「妊娠と薬外来」を設置しており、お住まいの地域でも相談しやすい体制を整備しています。さらに、これまでに行ってきた相談業務の拡充、医療従事者への教育研修など、一般も含めた情報発信を行い、製薬企業との共同研究も検討しています。
⑤については、女性に対して幅広い診療を提供する「女性総合診療センター」を国立成育医療研究センターの病院内に立ち上げました。女性内科、女性外科/婦人科、不妊診療科、女性精神科、女性歯科の5つの診療科で構成され、互いに連携し、女性に対して総合的な診療を提供しています。
更年期と思春期に包括的に着目
――「女性の健康総合センター」は設立されてから2年目となりましたが、この間注目し、現在具体的に研究等を進めているテーマはありますか。
私自身も産婦人科医であるため、従来、「女性特有の疾患」は産婦人科領域のみならず、もっと大きな枠組みの中で考えるべきであると感じていました。また、例えば更年期の課題を思春期から捉えて考えるなど、包括的な視点を持つ必要があると考えていました。
このため、「更年期」と「思春期」への取り組みが重要であると考えており、直近では、更年期の母親と思春期の子どものメンタルヘルスに関する研究結果を公表しました。社会構造が変化し、第一子の出産年齢が以前は26歳前後であったものが、現在は31歳まで上がっています。これは、母が更年期を迎える際、同時期に子どもも思春期を迎えることとなり、親の更年期と子の思春期の、心身のゆらぎをともに注視していく必要が生じています。
両親の共働きと育児の両立、介護など、家族を取り巻く社会構造は複雑化していることから、更年期等についても、婦人科領域のみならず、より「バイオサイコソーシャル」、つまり身体的、心理的、社会的に捉え、総合的に課題解決を図ることが重要です。
なお、更年期障害は、エストロゲンの低下などにより、さまざまな症状が出ることが特徴です。そのような中で、「本当に更年期障害なのか」と疑い、他の疾患が隠れていないかをしっかりと確認し、必要に応じて適切な治療につなげる必要があります。このため、更年期の症状をみる上では、内科や、うつ等との関連の部分で精神科、痛みがある場合には整形外科等、他の診療科との連携も必要となる可能性もあります。
実は、私自身、更年期は、〝非常に良い時期〟であると考えています。女性の更年期は、コレステロール値が上昇する、体重が増える、血圧が上がる、骨密度の低下などの多様な症状が起こりますが、これは慢性疾患の入口であり、そのための治療や対処方法を考えるきっかけになります。つまり、更年期は、生活習慣の見直しや病院受診のきっかけとなる、〝よい時期〟であるといえるのではないでしょうか。
人生100年時代といわれる中、平均寿命だけでなく健康寿命の延伸についても考える必要があり、その意味で女性の更年期は、まさに「健康づくりの再スタート地点」と捉えるべきであると思います。更年期はちょうど50歳前後で迎えることもあり、残りの約半分の人生をどのように過ごすか、再考するきっかけになるとよいと考えています。
思春期については、例えば思春期のお子さんが月経困難症等の問題を抱えたときに、婦人科にかかることに負担を感じる一方、小児科にはかかりやすいという場合があります。そのような場合、婦人科領域の本格的な治療が必要な方はもちろん婦人科で治療に当たるのがよいのですが、ファーストタッチは小児科の先生でも問題なく行うことができ、必要に応じて婦人科に紹介いただくことができるような、患者さんが不安感や不便さをできる限り感じないで済む環境があればよいと考えていました。
このため、「女性総合診療センター」では、婦人科と小児科で連携して診療を行う「思春期月経外来」を立ち上げました。今後、この外来について、一層対外的に発信し、日本全国に事例を展開していきたいと考えています。
思春期のメンタルヘルスへの取り組みも重要な課題です。日本は、OECDなどのデータをみると、先進国41カ国の中で、身体的健康度は1位です。一方で、メンタルヘルスについてみると、36カ国中32位とよい結果ではありません。そして、直近のデータでも、10代の女性の自殺率が高く、思春期のメンタルヘルスは喫緊の課題であるといえます。
このため、「女性の健康総合センター」だけでなく、国立成育医療研究センター全体で「思春期のメンタルヘルス」という問題を捉えていくべきであると考えています。例えば、人間ドックのようなウェルネスチェックを、思春期も含めたライフステージに応じて、メンタルヘルス領域も含め、実施していければよいでしょう。つまり、思春期の治療における小児科と婦人科の連携に限らず、センターの中で、さまざまな科が積極的に連携していくことが非常に重要です。もちろん時間はかかるとは思いますが、準備を進めていきたいと考えています。もし実行できれば、治療に限らず、予防医療の部分でも活用していけるようになると思います。
多様性踏まえ男女区別なく職場環境改善を意識
――「女性の健康」に関する職域における取り組みの推進に向けて、現状の問題意識や、アドバイスを伺います。
女性の健康に関する職域へのアプローチはまさに今後の課題であると認識しています。企業の女性の健康への支援は、会社から個人へのアプローチというよりも、もはや経営戦略の1つと捉えるのがよいと思います。福利厚生というよりも、会社自身のための人材への投資という側面をみるのもよいと思います。
健診の問診項目に、女性特有の健康に関する事項が追加されることとなり、その項目は月経困難症や月経前症候群、更年期障害に関連するものでしたが、やはりこれらは職域でも注目されている部分であると感じました。不妊治療についても、職域で焦点が置かれ始めている領域ではないでしょうか。
これらの女性のつらさを感じる症状等への職域における対策はさることながら、やはり企業の意識、職場文化も見直していく必要があると感じます。
この企業の意識、職場文化の見直しに当たっては、ある程度分かりやすいデータを企業等の方々にお示しし、理解を促す必要があります。それらのデータの可視化を行うことは、「女性の健康総合センター」の役割です。あるいは、センターに限らず、女性の健康に関するより多くの研究成果が、エビデンスとして、一般の国民の皆さんもみられるような場所に示されていけば、職域における女性の健康への取り組みが、より一層進んでいくのではないかと考えています。
また、「女性」に限定するのではなく、あくまで「性別にかかわらず働きやすい環境を整える」ことを掲げ、男性も巻き込んだ取り組みを進めていくのがよいと感じています。多様性を踏まえ、さまざまな視点から男女の区別なく一緒に物事に取り組むことにより組織は発展していくと感じています。
さらに、「投資」だけでなく、企業間のよい意味での「競争」という意識を持ち、女性の健康に積極的に取り組んでいくのもよいのではないでしょうか。例えば、ほかの企業が取り組んでいない分野への助成に踏み込み、「投資」することで、対外的なアピールに活用するのも1つの方法であると思います。
国内代表の組織として機能の拡充を
――今後の展望や、国民へのアプローチの在り方へのお考えなどを伺います。
「女性の健康総合センター」は、研究・開発・診療体制の拡充など、女性の健康に関するほぼ全てを網羅する組織として、日本国内だけでなく、世界からも「ここならばさまざまな情報が得られる」と認識していただけるような代表的かつ、司令塔機能を担う組織となることを目指しています。
現在は、国立成育医療研究センター内に「女性の健康総合センター」があり、場所も人材も十分とはいえません。今後、センターの建屋は設置予定ですが、機能も拡充していくことが理想です。そして、最後の砦の役割を担い、難解な症状等を抱える患者さんが「ここなら病気をどうにか解決してくれるかもしれない」と頼ってくださるような施設となることが理想です。
国民の皆さんに対しては、より分かりやすく、研究成果や政策提言等を説明していけるようにしていきたいです。現在、健康に関する情報は溢れていますが、どれが正しい情報かを判断することは難しくなっています。そのような意味で、「女性の健康総合センター」から発信している情報は正しい情報と認識していただき、確かに受け取っていただけるよう、これからも情報発信していきたいと考えています。