健康コラム
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。
企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~
日清食品ホールディングス株式会社
「美しく健康な体は賢い食生活から」を掲げ健康経営を推進
日清食品ホールディングス株式会社は今年3月に「健康経営銘柄2026」に初選定されるとともに、日清食品株式会社、日清食品チルド株式会社、日清食品冷凍株式会社と「健康経営優良法人2026(ホワイト500)」に8年連続で認定された。同社では2018年8月に「日清食品グループ健康経営宣言」を策定し、社員の心身の健康保持・増進に向けてさまざまな取り組みを戦略的に推進してきた。健康経営推進室では、「安心して・前向きに・いきいきと」働き続けられる環境づくりを目指し、医療職で構成されるチームと従業員向け施策の企画・実行を担うチームが車の両輪となって取り組んでいる。同社の健康経営の取り組みについて、同社人事部健康経営推進室課長の西山歩さん、同社人事部健康経営推進室主任の山口美希さん、日清食品グループ健康保険組合常務理事の鮫島誠一さんに聞いた。
【日清食品ホールディングス株式会社】
設立:1948年9月4日
東京本社:東京都新宿区新宿6-28-1
代表取締役社長・CEO:安藤 宏基
従業員数:1万7,988名(連結、2026年3月31日現在)
2018年8月に「健康経営宣言」
──創業者が掲げた「美健賢食」を健康経営宣言に

日清食品ホールディングス株式会社
人事部 健康経営推進室
課長 西山 歩 さん
西山さん ▶
当社グループでは、創業者の安藤百福が掲げた「美健賢食」(美しく健康な体は賢い食生活から)の精神に基づき、全社員が心身の健康を保持・増進し、能力を最大限に発揮しながら業務に当たることを経営における重要課題の1つに位置付けています。この言葉を「日清食品グループ健康経営宣言」として掲げ、本格的に健康経営に取り組み始めました。
食を通じてお客さまの健康づくりに貢献することは、私たちの大きなミッションの1つであり、そのためには、まず社員が健康でなければなりません。健康経営宣言では、社員の主体的な健康行動に期待するとともに、会社はそのために積極的な支援や、社員が健康に働ける労働環境づくりに取り組んでいくことを宣言しています。そうしたこれまでの取り組みが評価されて、今年、「健康経営銘柄2026」に初選出していただけたのだと思います。
そうした評価やこれまでの取り組みを踏まえて、当社グループの健康経営は次のステージに入っていく必要があると考えています。
当社グループの健康経営は、代表取締役社長・CEO と専務執行役員・CHRO が責任者となり、その下で健康経営推進室が中心となり、健保組合と連携しながら、各拠点の人事総務担当や医療職とともに取り組みを行っています。毎年2回「NISSIN健康経営全体会」を開き、現状や各種データ、施策の方向性等を共有していますし、健保組合とは毎月1回ミーティングを行い、施策の進捗状況等の確認や今後の取り組みなどの相談を行っています。
──安心して・前向きに・いきいきと働き続けられる環境づくりを
西山さん ▶
当社グループの健康経営は大きく3つのステップで取り組んできました。まず1つ目は「効果の可視化と経営課題との接続」です。健診結果のデータ化や健診管理システムを導入するとともに、KPIの設定や戦略マップを策定することで現状を常に見える化し、それに基づいた戦略を立てました。
2つ目は、その戦略を達成するための「実効性のある支援体制の整備・強化」です。健康経営推進室は当初は総務部の下にありましたが、従業員向け施策の増加や個人情報の取り扱いなど人事部門との連携が必要なことから人事部に移管するとともに、産業保健体制を見直し、保健師を増員し、現在は医療職で構成されるメディカルチームと従業員向け施策の企画・実行を担う企画チームにより施策を立案・推進しています。また、そうした過程で健保組合も2024年4月に設立しました。
そして3つ目は、これらを土台とした取り組みの実践です。健康経営推進室では、従業員が「安心して・前向きに・いきいきと」働き続けられる環境づくりを掲げて、施策を実践してきました。メディカルチームでは、心身の不調の重症化予防や治療と仕事の両立支援、全国の産業医・保健師との連携を強化し、従業員の不調の予防と早期発見を支える活動に取り組んでいます。また、企画チームでは、課題に基づく健康施策・企画の実施や健康増進につながる施策の継続に取り組んでいます。このように、メディカルチームと企画チームのそれぞれが車の両輪となっています。
山口さん ▶
両チームの距離がとても近く、気軽に相談や情報交換できているのが特徴だと思います。医療職については、現在、健康経営推進室所属の保健師が常勤4名、統括産業医が1名、また本社直轄で5つの製造工場がありますが、本社が嘱託産業医・保健師を配置し、統一的な方針の下で施策を進めています。
西山さん ▶
新規施策や関連会社へのさらなる展開を考えると、さらなる増員に取り組んでいきたいと思います。

日清食品グループ健康保険組合
常務理事 鮫島 誠一 さん
鮫島さん ▶
健康経営推進室が設置され、データを活用して施策を展開していきたいというときに、当時は製造工場なども含めて従業員の医療費の状況を確認することができない状況にありました。
2024年4月に健保組合を設立したことで、本社や5つの工場、また当健保組合に加入している関連企業の健診データやレセプト、医療費の状況を健保組合側で確認することができるようになり、現在はそれらを集計・分析し、毎月のミーティングで健康経営推進室と共有しています。また、健康経営推進室の施策と健保組合の保健事業の進捗の確認など、お互いに相談・サポートをしながら、コラボヘルスに取り組んでいます。
──工場に直接出向き「体感する」ことが重要
西山さん ▶
健康経営に取り組む上で苦労したのは、当社グループの従業員の半数は工場で働いており、そこではさまざまな就業形態があること、会社支給の個人アドレスやパソコン、スマートフォンを持っておらず、イントラネットの情報を確認することが難しいこと、多くの外国人の従業員が働いていることなど、本社とは環境が大きく異なることでした。工場の従業員にどのように情報を発信し施策を展開していくのかを検討する中で、健康経営推進室のメンバーが現地に出向くことを心掛けました。
地道に工場に何度も直接行くことで、徐々に健康経営や取り組みを理解してもらえるようになり、今は機会があれば現地に直接行って私たちが「体感する」ということを心掛けています。

日清食品ホールディングス株式会社
人事部 健康経営推進室
主任 山口 美希 さん
山口さん ▶
私たちが直接現地に出向きイベントを実施することで、現地の環境やニーズをしっかり把握した上で施策を提供しようとする姿勢が伝わるようです。実際に工場の従業員からは「自分たちのことを思ってくれているという実感が得られる」という声ももらいました。直接会って現地の声をしっかり吸い上げるということが一番大事だと思います。
西山さん ▶
2024年から各工場で年1回、健康測定イベントを実施しています。健康診断の検査項目に含まれていない血管年齢や骨の健康度、ロコモ度、推定野菜摂取量など短時間で測定可能でその場で結果をフィードバックできるものを用意するとともに、工場の従業員は就業形態によって休憩時間も異なることから、参加しやすいように各事業所のニーズに合わせて柔軟に対応しています。当日はメディカルチームも参加し、保健師による簡易な相談や指導も行っています。
2025年は全国8事業所で実施し、約1100名が参加しました。満足度は88.1%で、参加者の95.7%が生活習慣や健康行動を見直す行動変容にポジティブな回答をしています。また、イベントで得られたデータを集計し、次の施策に活用しています。
山口さん ▶
工場の同じラインの従業員と参加することで、仲間内で楽しみながら測定をしています。また工場では年1回、稼働停止日があり、今年度はその日に健康測定イベントを実施したことで、過去最多の従業員に参加してもらうことができました。
──データを基に施策を展開しさらに活用
山口さん ▶
データ活用を本格化させたきっかけは、新型コロナウイルス感染症の流行でした。当時、当社グループも在宅勤務を推奨していましたが、世の中で課題となっていた「テレワークうつ」への対策が必要であると考えました。
そこで、「ストレスケアプロジェクト」を実施し、在宅勤務者約1360名に対して、心拍の揺らぎや自律神経の状態を測定し、目に見えない体の疲れやストレス度合いを数値化・可視化できる機材で状態を確認したところ、脳疲労の状態にあるなど要フォロー対象者が約12%いることが分かりました。そして、注意が必要な従業員に対しては自律神経に関する基礎知識やセルフマネジメントに関する書籍の配布、産業医によるオンライン面談を実施し、ストレスの過剰蓄積の予防を試みました。
その経験から、プレゼンティーイズムや心身の不調を可視化して、個々の従業員に気付きを促す取り組みができないかと考え、2022・2023年度に慶應義塾大学と共同研究を実施し、ウェアラブルデバイスを活用した心拍変動解析により、プレゼンティーイズムを簡易的に可視化することが可能になりました。
そして2024年度には、運動を促進することによって心拍変動が起き、プレゼンティーイズムや心身の不調が改善するのか効果を検証した結果、運動習慣が心理的不安の軽減に有効だという結果が実証されました。
これらの共同研究の成果を踏まえて、2025年度に従業員向けに運動習慣を促進する簡易プログラムを設計し、健保組合と協働で実施しました。具体的には、「週2日以上1日1万歩以上歩くことを、2カ月の間に6週間以上達成する」という目標を設定しました。これに471名が参加し、このうち241名(51.2%)が目標を達成するとともに、アンケートでは参加者の75%が健康意識の変化を感じたと回答しました。
また、目標達成者と未達成者のデータを比較すると、心理的不安やうつ傾向、プレゼンティーイズムなどいずれの項目も達成者の改善率が高い結果が出ており、この結果を活用した運動施策をまた展開していきたいと考えています。
西山さん ▶
同じような運動施策を講じている企業もあると思いますが、当社は従業員の参加率を高めるためには根拠やデータを示すことが重要だと考え、取り組みの結果を従業員に発信しています。
──コラボヘルスで従業員・家族の健康を
西山さん ▶
私たちとしては、従業員が「安心して・前向きに・いきいきと」働き続けられる環境づくりに向けて引き続き取り組みを進めていきます。とくに、「働き続けられる」というのは、健康をどれだけ維持していられるか、健康寿命を延伸できるかということにつながることであり、これは高齢期の医療費にもつながる重要な社会的な課題だと考えています。
このほかにも若い女性のやせやコンセプションケアに対する取り組みも進めています。従業員の健康リテラシーの観点からは、若い従業員はどうしても関心が低い傾向がありますので、こうした取り組みを通じて意識を芽生えさせていきたいと思います。
また健保組合には、被扶養者の保健事業に取り組んでいただいており、コラボヘルスで、従業員とその家族の健康づくりに一緒に取り組んでいきたいです。
鮫島さん ▶
健保組合は設立から3年目に入り、レセプトや医療費などさまざまなデータが集積され、勤務形態や性別、年齢などの属性別での傾向が見えてくるようになりました。そうした情報を健康経営推進室と共有し、根拠に基づいた施策の展開を支援していきたいと思います。